形の視知覚・奥行き知覚

形の視知覚

全体野、静止網膜像

 眼球と閾値以上の適刺激があれば視覚による形の知覚が成立するかというと、そうとは限りません。
光の波長、強度などが存在しても、それらが完全に均質な場合には、そこに形と呼ぶべき対象は存在しないということになるので、当然形を知覚することはできません。光の波長、強度など全体が完全に均質である視野を全体野と呼びます。卓球のボールを二つの半球に分けて両眼を覆い、強い照明光に眼を向けると、全体野を体験することができます。全体野では視野全体が等質な光に満たされて焦点すら定まらない状態になりますが、ボールの表面にシミをつけると、そこに非均質な領域が知覚されて全体野は崩れます。視野に明暗の非等質な領域があってはじめて何かが見えるようになるのです。
 また、私たちの眼は、動かさないようにしても意思ではコントロールできない急速で、かつわずかな動揺があります。その結果、網膜に投射される対象の像もたえず網膜上でその位置を変えているのです。これを、例えばコンタクトレンズなどを用いて、眼が動けば網膜像も連動して動くようにして止め、つねに対象が網膜の同一位置に投射されるようにすると、対象は形態要素あるいは意味単位ごとに崩壊、消失、再現を繰り返して、ついには見えなくなってしまいます。このように人為的な方法で網膜上に静止像を作り出すこと、あるいは作り出された像を静止網膜像と呼びます。この静止網膜像からもわかるように、眼の微細な動きも形の知覚に不可欠なものなのです。

図と地

 上記のような条件が整って形が知覚されるようになります。そして、明暗の急激な差があれば輪郭が発生します。視野の中で形をもって浮き出て見える領域を図、その背景となって見える領域を地といいます。人の横顔と杯の二通りの見え方が交替する図形を例に挙げれば、人の横顔が見えている時は人の横顔の領域が図でそれ以外が地に、杯が見えている時は杯の領域が図でそれ以外が地になっているということです。
 ルビン(Rubin,E.)はその図形の観察を通じて、同一の領域でも図と地の役割が異なると全く様相が異なることを指摘しました。図と地の現象的差異について①図となった領域は形をもつが、地は形をもたない。②二つの領域を分ける境界線は、図となった領域の輪郭線となり、図の領域の末端として図に所属し、地はそこで終わらず、図の下にまで広がっている印象を与える。③図は物の性格をもち、地は材料の性格をもつ。④図となった領域は地となった領域よりも色が堅く、密で、定位が確定的である。⑤一般に図は観察者の方の近く定位される。⑥図は地よりも印象的であり、意識の中心となりやすい。したがって、図は記憶されやすく、意味を担いやすい。といったことが指摘されています。

知覚の体制化、プレグナンツの傾向、ゲシュタルト要因

 日常的には、視野にある一つの領域だけが図を知覚させるのではなく、いくつかの個々の図が相互にまとまって一層大きな全体としての集合をつくり、それが全体的な図として知覚されることが一般です。独立した要素がばらばらではなく相互に関連し合って秩序ある統合的全体を構成する状態のことを体制化といいます。知覚の体制化については、ゲシュタルト心理学において精力的に研究が行われてきました。ヴェルトハイマー(Wertheimer,M.)は、知覚の体制化が簡潔・単純な方向に向かって起こる傾向をプレグナンツの傾向として指摘しました。ただし、簡潔・単純な方向というのは、必ずしも規則性があることや相称的であることではありません。
 この知覚の体制化にはいくつかの要因が関連しており、それらの要因はゲシュタルト要因と総称されます。ゲシュタルト要因には様々なものがあり、他の条件が等しければ、近い距離にあるものがまとまりをつくるとする近接の要因、運動と静止をともにするものがまとまる傾向をもつとする共通運命の要因、類似した性質のものがまとまりをつくるとする類同の要因、滑らかに連続するものがまとまりをつくるとするよい連続の要因などが知られています。

心的回転

 形に関する情報はイメージとしても処理されます。向きが異なる同じ図形の対か鏡映関係にある図形の対かどちらかを呈示し、被検者に異同判断を行わせると、反応時間は、図形対の角度差が大きくなるにつれて増大します。つまり、回転角度が180度までおおきくなるにつれて、反応に時間がかかるようになるのです。この結果は、被験者が一方の図形を心的イメージとして回転させ、照合を行っていると解釈でき、メンタルローテーションの問題として研究がなされました。私たちが地図を見るとき、自分が北に近い方角を向いているときには地図を正位置で読みやすいけれど、南を向いているときには地図を正位置で読むことは難しくなるでしょう。こういったことから、回転角度の大きさが反応の難しさと関連していることが実感できます。

奥行き知覚

 網膜に映る外界の像は二次元的ですが、視知覚は三次元的になされます。空間の三次元性の知覚は奥行き知覚と呼ばれます。奥行き知覚を成立させる要因は様々な側面から分類することができますが、その一つに片眼視での手掛かりと両眼視での手掛かりがあります。
 片眼視での手掛かりとしては、例えば、経験学習的な要因として、網膜像での位置関係や重なりといった相対的位置と重なりの手掛かりや線遠近法による手掛かり、きめの密度勾配の手掛かり、光と陰影の手掛かり、図形の不規則性すなわち不均斉性の手掛かりなどがあります。
 両眼視での手掛かりとしては、ひとつとして両眼の輻輳作用が知られています。外界の対象を両眼で見るときに、注視している対象が両眼の対応する網膜部位で結像しないと二重像になってしまいます。この二重像を避けて単一像を得るための両眼の回転運動を輻輳といい、両眼の視線が注視点に収束してできる角度を輻輳角といいますが、これらが奥行き知覚の生理学的手掛かりとなっていると考えられます。これと関連して、両眼の視線方向の差である両眼差視なども両眼視での手掛かりになっていると考えられます。

関連問題

●2020年-問6

参考文献

  • 松田隆夫 1995 視知覚 培風館
  • 無藤隆・森敏昭・遠藤由美・玉瀬耕治 2018 心理学新版 有斐閣
  • 中島義明・安藤清志・子安増生・坂野雄二・繁桝算男・立花政夫・箱田裕司(編) 1999 心理学辞典 有斐閣
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