解離性障害

解離性障害

 解離性障害は、個人の持つ記憶や意識面における一貫性や統合性の問題を主として呈する精神疾患です。感覚や観念、運動などの要素的経験が結びつくことを表す「連合」の概念を前提として、それぞれの要素的経験が統合されていない場合に「解離」という用語が用いられます。

 解離はジャネ(Janet,P.)によって概念化されました。ジャネは、神経衰弱から精神衰弱と名づけた症候群を抽出して研究をおこない、解離は精神衰弱の状態で生じるとしました。ジャネは、健常人がさまざまな精神機能を安定した一貫性のある心理構造に統合するためには基本的な心的エネルギーが必要であるとして、それが病的に乏しくなったり遺伝的にかけているために解離が生じるとしたのです。そして解離とは、心的外傷に直面しての心的エネルギーの消耗によって心的エネルギーの総量が臨界点以下になり、結合力が弱まって種々の精神機能のコントロールが失われる状態をいいます。
 一方で、フロイト(Freud,S.)は、心的外傷を受けた人が痛々しい外傷の記憶を思い出さないようにするために解離が生じると考え、解離の防衛的な側面に注目していきました。

 解離は、健忘や遁走、退行、トランス、自我同一性障害、現実感の喪失や離人症といった形で、知覚や記憶、自我などの様々な領域にあらわれます。それらは「意識・記憶・同一性・知覚の統合が失われる状態」と「直接、感覚野身体運動のコントロールの統合が失われる状態」とに整理することができ、前者を狭義の解離性障害、後者を特に転換性障害とにわけて分類するようになっていきました。
 これ以降の文章で、解離性障害という言葉があらわす病態は、転換性障害と区別される狭義の解離性障害をさすものとします。

 ジャネもフロイトも症状と関連して心的外傷に着目しているように、解離性障害も転換性障害も、症状の背景に解離の防衛的な役割が仮定されています。

 解離は、痛ましい記憶や体験、強い恐怖や絶望といった心的苦痛を意識の外に追いやり、不安を減少させるといった役割を担っていると考えられていますが、特に解離性障害に関して、重篤な解離症状の場合には背景に被虐待経験や心的外傷体験が存在することが多いとされます。

 連合の解離に関する多彩な症状は一方の極を意識、一方の極を運動とする軸に、解離・転換スペクトルとして症状をまとめることができます(松浦 2002)。

解離・転換スペクトル

 転換症状は、四肢麻痺や歩行障害などの運動障害、知覚鈍麻や知覚過敏などの感覚障害、めまいや動悸などの自律神経症状など多彩な形をとります。

 解離性健忘や解離性遁走の治療には、失われた記憶の回復と心的外傷からの回復という面があります。健忘している出来事は、通常、患者にとって苦痛な外傷体験であり、想起は再びその現実に直面することになるため、面接の話題はいきなり健忘の中心的材料に触れるのではなく、間接的・周辺的な材料からはじめていきます。解離性障害の治療の基本は、安心できる治療環境を整えること、家族など周囲の人の理解、主治医との信頼関係とされています。
 また、特に転換性障害においては、身体疾患を見逃さないように注意する必要があります。

関連問題

●2018年-問35 ●2019年-問92

参考・引用文献

  • 松下正明(総編) 1997 臨床精神医学講座 第5巻 神経症性障害・ストレス関連障害 中山書店
  • 松下正明(総編) 1999 臨床精神医学講座 第6巻 身体表現性障害・心身症 中山書店
  • 松浦雅人 2002 転換性障害と解離性障害 日野原重明・井村裕夫(監修) 看護のための最新医学講座12 精神疾患 pp.318-328 中山書店
  • 氏原寛・亀口賢治・成田善弘・東山紘久・山中康裕 2004 心理臨床大事典(改訂版) 培風館