臨床心理学

 臨床心理学とは、主として心理・行動面の障害の治療・援助、およびこれらの障害の予防、さらに人々の心理・行動面のより健全な向上を図ることをめざす心理学の分野です。当サイトにおける臨床心理学というカテゴリーは、人間の健康な側面を扱う基礎心理学と対になるカテゴリーとして設定されています。また、当サイトでは、臨床心理学に関する知識を、どのような領域の心理臨床でもその基盤となる『基礎論』と、特定の領域においてより重要となる『領域各論』とに便宜的に分けています。

 様々な領域でおこなわれる心理臨床ですが、そこにはアセスメントに基づいて介入するという共通するプロセスがあります。心理臨床は、やみくもにおこなわれることは決してありません。この心理臨床の基本的な知識が『基礎論』にまとめられています。例えば、動かない車を自分で修理しようとしたら、まず車が今どういう状態なのかを調べてから修理をはじめるでしょう。料理が思った味にならなければ、何が足りないのかを考えてから味を足していくでしょう。やみくもに対応すれば、問題を大きくしかねません。同じように心理臨床でも、しっかりと見立ててから、それに応じて治療や援助がおこなわれます。

 心理臨床におけるアセスメントと介入は、①情報収集、②情報の分析・統合(仮説の生成)、③介入(仮説の検証)、④新たな情報の収集、⑤新しく得られた情報を踏まえた仮説の修正という順番で進んでいきます。そして、⑤で修正された仮説はそれに基づく介入によって検証され、そこから得られた情報で仮説がさらに修正されていくという循環的な過程をたどります。公認心理師法でも、公認心理師の仕事として、心理に関する支援を要する者の心理状態の観察、その結果の分析と、援助が挙げられていますが、観察が①(④)、分析が②(⑤)、援助が③の過程にあたると考えられるでしょう。この心理臨床のプロセスは、どのような心理臨床の場面にも共通する基礎的で重要なものだと思います。

 ①情報収集はさまざまな方法でおこなわれます。患者の語りから、家族の語りから、患者の行動観察から、各種検査結果から有益な情報は得られます。ただし、介入が場当たり的におこなわれることがないのと同様に、情報収集についてもやみくもにおこなわれることはありません。情報収集は②の枠組みに照らし合わせておこなわれ、必要な情報が取捨選択されていきます。

 そうして得られた情報は、②分析・統合され仮説が生成されていきます。適切な情報を収集し、仮説を立てるこの過程をアセスメントやケース・フォーミュレーションとも呼びます。このアセスメントは、様々な水準から多角的におこなわれます。なかでも優先的に介入が必要という意味でアセスメントの順位が高いのは「生命の安全」に対するアセスメントでしょう。強い希死念慮や過酷なDV、虐待など生命の危機が差し迫っている状況では、まず何よりもそこへの介入を優先する必要があります。金銭的な問題からインフラが整っておらず、生命の安全が保障されていない場合などもそこを整えることが優先となるでしょう。災害で「のどが渇いた」と言っている人に必要なのは、その辛さに耳を傾けることでなく、水なのです。次いで順位が高いのは、身体疾患に対するアセスメントです。身体的な問題はより直接的に生命の危機につながりやすいものです。また、身体的な不調が身体化によって生じていると考えるには、まず身体疾患の可能性が除外される必要があります。骨折から生じる痛みには、心理的なアプローチでなく身体的なアプローチが優先しておこなわれる必要があるでしょう。これらに、精神疾患に関するアセスメントが続きます。中でも、知的能力や高次脳機能的といった本人が最大限持ち得る能力がどの程度かめどをつけていく事は、介入の方向性を決める基本的な基準になるでしょう。例えば、知的な能力に問題がある人には、経済的にも身体的にも自立した生活を目指すように働きかけていくよりは、使えるサービスを用いながらできる範囲で生活していくことを目指すように働きかけていくほうがより妥当かもしれません。また精神症状の有無は、現状に大きな影響を与えます。例えば幻覚症状が強い状態では、通常の交流が難しくなるような場合もあります。そのような場合には、心理療法的な介入をおこなう前に薬物療法などによって症状をおさえる必要があるでしょう。これらが全てアセスメントされた上で、各種心理療法的な介入をおこなうための、心理療法的なアセスメントがおこなわれるのです。例えば、精神分析的な心理療法であれば、転移や防衛機制のあらわれ方に注目して自我や対象関係の在り方といった面からその人らしさを理解しようとし、発達段階なども踏まえて主訴がどういう文脈から生じているのかなどを理解していこうとするでしょう。また、行動分析では、構成概念は用いずに行動の水準に注目し、三項随伴性の観点から行動に影響を与えている要因を検討したりオペラント水準を調べたりしていくことになるでしょうし、認知行動療法では感情や認知といったものも含めた個人と環境との相互作用から患者の主訴を理解していこうとするでしょう。システム論的な家族療法であれば、家族の相互作用をはじめとしたシステムの循環に注目して理解を進めるでしょうし、解決志向アプローチであれば、問題の原因という過去よりも問題が解決した未来に目を向け、現在を未来に近づけていくためにすでに何が起こっているのかに注目したりしていくでしょう。このように、アセスメントの優先順位が高いものに問題がある場合には、基本的にそこから介入が進められてくのです。ただし、これらは時系列的には同時並行で進められていきます。

 こうしたアセスメントに基づき③介入が進められていきます。特定の疾患や症状に対してはそれにあわせた薬物療法がおこなわれるでしょうし、必要に応じて社会資源が活用されることもあるでしょう。また、精神療法的な介入は、その精神療法の枠組みにあわせて生成された仮設に基づいておこわなれるのです。そして、これら介入によって患者にあらわれる変化を新たな情報として仮説に統合し、介入を修正していきます。

 こういった心理臨床の基礎に関する知識がある一方で、心理臨床の実践場面は、健康・医療、福祉、教育、司法・犯罪、産業・組織など多岐にわたり、それぞれの領域に特有の知識もあります。それらの知識を『領域各論』として領域ごとにまとめました。

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