検索
プライミング
検索とは、記憶された情報のなかから、特定の情報を探し出して取り出すことです。検索の効率は直前の情報検索に影響を受けることが知られています。
先行刺激の受容が後続刺激の処理に促進効果を及ぼすことをプライミングといいます。一般的に先行刺激をプライマー、後続刺激をターゲットといいます。プライミングにおける促進効果をプライミング効果と呼びますが、条件によってはプライマーが抑制効果をもつこともあり、この場合はネガティブ・プライミングということもあります。
プライミングは、先行刺激の受容が、その刺激と同じ後続刺激の処理に促進効果を及ぼす直接プライミング(反復プライミング)と、主に意味的関係にある2つの刺激を継時提示すると後続刺激の認知が促進される間接プライミング(連想プライミング)とに分けることができます。
直接プライミングの研究では、プライマーとして単語、ターゲットとしてその単語の一部を刺激として提示する単語完成課題、その単語を瞬間的に提示する知覚的同定課題、あるいはその単語と類似単語を提示する語彙判断課題などが多く使用されます。
直接プライミングの研究は、ターゲットの刺激を処理する場合に、プライマーを意識的に想起する必要がないことから、潜在記憶の研究として位置づけられます。これに対して、再認や再生などの場合、現在意識していることは過去に経験したことであるという再現意識を伴うため、顕在記憶を測定していると考えられています。提示モダリティ(視覚提示・聴覚提示)の変化は、顕在化題にはあまり影響しないものの潜在化題には影響することが知られています。ただし、単語完成課題が潜在記憶を、再生再認課題が顕在記憶を測定しているという単純な区分は見直されつつあります。
間接プライミングの研究では、意味的に関係のある、あるいは連想関係にある2つの刺激を継時提示します。この間接プライミングは、 活性化拡散モデルによってうまく説明できます。たとえば、先に「テレビ」が呈示されると、その直後に呈示される「ラジオ」に対する語彙判断は、促進されます。これは、上述のように、先行呈示される「テレビ」の処理により、意味記憶においては「ラジオ」にも活性化が拡散しているからだと考えられます。
間接プライミングの効果は、プライム刺激が明確に認知できない場合でも生じることが知られています。
トマソンとタルヴィングの符号化特定性原理
長期記憶からの検索では、非活性化状態にある膨大な情報を活性化しなければならないため、目標とする情報と関連する情報を手がかりとして有効に利用することが重要となります。適切な手がかりを用いることにより、記憶検索は促進されます。
トマソンとタルヴィング(Thomson,D.M.&Tulving,E.)は被験者に記銘語と記銘語に対する連想語の対を呈示し(たとえば、Train-BLACK,White-BLACK)、連想語を手がかりとして再生をさせました(Train-?,White-?)。この場合、BLACKが記銘語であり、記銘語に対する連想語(Train)と強い連想語(White)が手がかり語となります。ただし、記銘時と再生時に同じ連想語が呈示される場合と異なる連想語が呈示される条件とが設けられました。その結果、どちらの手がかりが与えられる場合でも、それが記銘時に記銘語と対にして呈示されていた場合の方がそうでない場合よりも有効でした。ここから、検索手がかりが有効であるためには、それが記銘語とともに符号化されている必要があるのと考えられ、これを符号化特定性原理と呼びます。
記憶の文脈依存、記憶の状態依存性
記銘時と検索時の異同が検索の成功率に影響するという現象は、単語が対呈示される場合に限りません。符号化時と検索時の文脈も記憶成績に影響を及ぼすことが知られており、この現象を記憶の文脈依存とよびます。たとえば、ゴドンとバッデリー(Gdden,D.R.&Baddeley,A.D.)はスキューバ・ダイビングのクラブの学生を被験者として、彼らに水中または陸上で単語リストの記銘および再生をさせました。その結果、記銘時と再生時の環境的文脈が一致している条件の方が一致していない条件よりも再生成績がよかったのです。
同様の現象は「再生」だけでなく「再認」の場合にも生じることが知られています。たとえば、ふだんはキャンパスでしか会うことのない大学の友人に旅先の思いがけない場所で出会っても、うっかり見過ごしてしまうことがありますが、これは再認の文脈効果とよばれる現象です。符号化時と検索時(再認時)の文脈が異なることによって生じる現象だと考えられます。一般に再生の方が再認よりも困難であるが、この文脈効果のために、「再生できるのに再認できない」場合もあることが知られています。
このような記銘時と検索時の外的状況以外にも、被験者の内的状態が記銘時と再生時で一致しているかどうかが再生成績に影響するという現象を記憶の状態依存性と呼びます。たとえば、グッドウィンらGoodwin,D.W.et al.は、被験者がアルコールで「酩酊している状態」または「しらふの状態」で記銘および再生をさせた。その結果、記銘時と再生時の状態が一致している条件の方が一致していない条件よりも再生成績がよいことを見出しました。
意識状態以外にも、記銘時と再生時の気分(楽しい気分または悲しい気分)が一致している場合の方が不一致の場合よりも再生成績がよいという実験結果も報告されています。これは一般的に気分依存性効果とよばれますが、これも記憶の状態依存性の現象の一種と考えられます。
関連問題
参考文献
- 川口潤 1995 プライミングの認知心理学-潜在認知・潜在記憶- 失語症研究15(3) 225-229
- 無藤隆・森敏昭・遠藤由美・玉瀬耕治 2018 心理学新版 有斐閣
- 中島義明・安藤清志・子安増生・坂野雄二・繁桝算男・立花政夫・箱田裕司(編) 1999 心理学辞典 有斐閣
- 太田信夫 1988 長期記憶におけるプライミング―驚くべき潜在記憶(implicit memory)- 心理学評論31(3) 305-322
- 太田信夫 1991 直接プライミング 心理学研究62(2) 119-135