乳幼児研究法

乳幼児研究法

乳児の機能を研究するためには、非言語的でかつ客観性のある方法が必要です。そのために、様々な方法が考案されてきました。

選好注視法

選好注視法は、Fantz,R.Lらによって開発された乳児の視覚行動を観察するための手法です。一般的には、乳児の目の前のパネルに2枚の刺激図形を並べて呈示し、乳児がどちらの図形を長く注視するかを実験者がパネルののぞき穴から観察し記録するという手続きが用いられます。この方法によって、乳児の興味の方向や視覚的能力が明らかにされています。

馴化-脱馴化法

パヴロフによって定位反応として取りあげられていた馴化-脱馴化は、人間の発達初期における認知機能の指標として用いられるようになっています。馴化-脱馴化法は、乳児に特定の刺激を繰り返し呈示し、馴化させた後にその刺激と異なる、新しい刺激を呈示し、その反応を見る方法です。もし新しい刺激に対して脱馴化が生じるならば、乳児は少なくとも両者を区別していることが示唆されます。選好注視法では、選好に差がわずかしかない刺激間では注視時間の差が測定困難となります。そこで、乳児はより新規な刺激を馴化した刺激よりも長く注視することを利用した馴化-脱馴化法が開発されました。

ストレンジ・シチュエーション法

乳児期からそれに続く幼児期にかけて、母親を代表とする養育者との間で特別な関係性が築かれていきます。例えば、多くの赤ん坊は生後6,7カ月になると、母親以外の人との関わりを避けるような仕草が見られるようになりますが、ここからは母親とそれ以外の人とが区別され、母親との間に他の人とは違った関係性が築かれたことがうかがえます。
このような特定の対象に対する特別の情緒的結びつきのことを、ボウルビィ(Bowlby,J.)は愛着と名づけました。この時期の良好な母子関係が、その後の人格形成や精神衛生の基盤になるとされています。

乳児期の母子間の情愛的結びつきの質を観察し測定する方法として、エインズワース(Ainsworth,M.D.S.)のストレンジ・シチュエーション法が知られています。
ストレンジ・シチュエーション法は、人みしりの激しい満1歳時の乳児が、母親と見知らぬ部屋(実験室)に入室して見知らぬ人物(実験者)に会い、母親はこの人物に乳児を託して退室して、しばらくしてまた戻ってくるというもので、全体で下の8つのエピソード場面からなります。

  1. 実験者が母子を室内に案内、母親は子どもを抱いて入室。実験者は親に子どもを降ろす位置を指示して退室。
  2. 母親は椅子にすわり、子どもはオモチャで遊んでいる。
  3. ストレンジャーが入室。ストレンジャーは空いている椅子にすわる。
  4. 1回目の母子分離。母親は退室。ストレンジャーは遊んでいる子どもにやや近づき、働きかける。
  5. 1回目の母子再会。母親が入室し、ストレンジャーは退室する。
  6. 2回目の母子分離。母親も退室し、子どもはひとり残される。
  7. ストレンジャーが入室。子どもをなぐさめる。
  8. 2回目の母子再会。母親が入室し、ストレンジャーは退室する。

一連の流れの中で、母親との分離後や再開時などの様子から子どもの愛着の質を探ります。その結果はいくつかの群に分類されます。
A群は、親との分離時に泣いたり混乱を示したりすることがなく、再会時に母親を避け、親を安全基地として利用することがほとんどない、回避型と呼ばれる一群です。

B群は、分離時に多少の泣きや混乱を示すが、再会時には親に身体的接触を求め、容易に落ち着く一群で、親を活動拠点(安全基地)として積極的に探索行動を行うことができ、安定型と呼ばれます。
C群は、分離時に非常に強い不安や混乱を示し、再会時は身体的接触を求める一方、親を叩いたり怒りを示したりと両価的にふるまう一群です。親から離れず、親を安全基地として安心して探索行動を行うことができず、両価型とされます。
これらの群の他に、母親に接近し始めたものの途中で立ち止まり床にひっくり返って泣き出したまま近づくことができないなど、効果的でない方法で母親への接近を求め、その行動に整合性や一貫性がない未解決型と呼ばれるD群があります。
一般的にBタイプは安定型、A、Cタイプは不安定型と捉えられますが、いずれも個性の範囲であり、病理性を示唆するDタイプとは区別されます。

引用・参考文献

  • 子安増生・二宮克美(編) 2004 発達心理学[改訂版] 新曜社
  • 中島義明(他編) 1999 心理学辞典 有斐閣
  • 西川隆蔵・大石史博(編)2004 人格発達心理学 ナカニシヤ出版
  • 坂上貴之・井上雅彦(著) 2018 行動分析学 有斐閣アルマ