心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律:医療観察法

心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律:医療観察法

 この法律は、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対して、継続的かつ適切な医療とそのために必要な観察及び指導を行うことによって、病状の改善とそれに伴う同様の行為の再発の防止を図り、社会復帰を促進することを目的としています(第1条)

 この法律でいう対象行為とは、放火、強制わいせつ、強制性交等、殺人、傷害、強盗で、傷害以外は未遂も含みます(第2条)。

 この法律の対象者は、法律の名前にもあるように、心神喪失者と心神耗弱者です(第2条第2項)。刑法では、心神喪失者の行為は罰しないこと(刑法 第39条)、心神耗弱者の行為はその刑を減軽すること(刑法 第39条2項)が示されており、そういった人を対象に、この法律によって医療の提供などを通して、再犯防止と社会復帰が目指されるのです。

 検察官は、対象行為をおこなった被疑者が心神喪失、心神耗弱であることを認めて公訴しない場合や、裁判によって心神喪失や心神耗弱によって無罪や減刑であることが確定した場合には、地方裁判所に入院等の決定を申し立てなければなりません(第33条)。

 地方裁判所は、1人の裁判官と1人の精神保健審判員の合議体で処遇事件を取り扱います(第11条)。精神保健審判員は、その職務を行うのに必要な学識経験を有するとされる精神保健判定医の記載された名簿から地方裁判所が毎年あらかじめ選任したものの中から、処遇事件ごとに地方裁判所が任命しますが(第6条)、精神保健審判員は、評議の際に精神障害者の医療に関する学識経験に基づいて、その意見を述べることが義務付けられています(第13条第2項)。また、精神保健福祉士をはじめ、精神障害者の保健福祉に関する専門的知識技術を有する者が、精神保健参与員として各事件について1人以上、裁判所に指定されます(第15条)。

 検察官による申し立てを受けた裁判官は、鑑定やその他の医療的観察のために当該対象者を入院させ、次の決定があるまでの間在院させるよう命じなければなりません(第34条)。また、裁判所、対象者にこの法律による医療を受けさせる必要があるかどうかを判断するために医師に鑑定を命じなければなりません(第37条)。そうして、鑑定の結果などを踏まえ、医療を受けさせるための入院か、入院によらない医療をうけさせるか、この法律による医療をおこなわないかを決めます(第42条)。

 入院の決定がなされた場合、厚生労働大臣が指定する指定入院医療機関で(第16条)、入院による医療を受けなければなりません(第43条)。指定入院医療機関の管理者は、精神障害が改善し、この法律による医療を受ける必要が認められなくなった場合には、保護観察所の長の意見を付して、地方裁判所に対して退院の許可の申立てをしなければなりません(第49条)。裁判所はこの申し立てを受けた場合、指定入院医療機関の管理者の意見を考慮し、入院の継続か、もしくは入院によらない医療をうけさせるか、この法律による医療を終了することを決めなければなりません(第51条)。

 入院によらない医療は、原則3年でおこなわれますが、必要に応じて2年を超えない範囲で延長することもできます(第44条)。入院によらない医療を行う期間中は、精神保健観察がおこなわれます(第106条)。

 保護観察所は、保護観察の実施に関することなどをおこないます(第19条)。保護観察所には社会復帰調整官がおかれ(第20条)、精神保健観察をはじめ、生活環境の調整や、関連機関の連携の確保といった保護観察所の仕事をおこないます(第19条)。

精神保健観察に付された場合には、速やかにその居住地を管轄する保護観察所の長に当該居住地を届け出るほか、一定の住居に居住することなどを守らなければなりません(第107条)。保護観察所の長は、入院によらない医療をける者が、親族などから必要な保護を受けることができず、生活に著しい支障を生じている場合には、金品を給与したり、貸与するといった緊急の保護を行うこともできます(112条)。

関連問題

●2018年-問119 ●2018年(追加試験)-問31 ●2021年-問120

参考文献