秘密保持義務

秘密保持義務

 公認心理師法では、「公認心理師は、正当な理由がなく、その業務に関して知り得た人の秘密を漏らしてはならない」として、秘密保持が義務付けられています。秘密保持の義務は、公認心理師でなくなった後においても続きます(公認心理師法第41条)。

 日本心理臨床学会では、守秘義務として、「心理臨床実践にたずさわる者は、援助対象者の個人情報に関して守秘義務を負う。」としています。相談の内容や援助の過程で知りえた個人情報は、その家族も含め第三者には原則として、開示しません(日本心理学会倫理委員会 2011)。個人情報の保護に関する法律でも、個人情報を取扱う事業者は、原則的に、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならないとしています(個人情報の保護に関する法律第27条)。 
 ただし、第三者への情報の提供のうち、患者の傷病の回復等を含めた患者への医療の提供に必要であり、かつ、個人情報の利用目的として院内掲示等により明示されている場合は、原則として黙示による同意が得られているものと考えられます。ちなみに、同一事業者内で情報提供する場合は、当該個人データを第三者に提供したことにはなりません(厚生労働省 2010)。

 このように原則的に個人の同意を得ずに第三者に個人データを提供することはできません。とはいえ、種々の要因によって秘密保持にも限界があります。そのため、相手と守秘の限界について話し合う必要があります(APA 2017、Nagy,T.F. 2005)。

適切な情報の取り扱い

 そもそも、心理学的なサービスを提供するにあたっては、必ずインフォームド・コンセントを得る必要があります(APA 2017、Nagy,T.F. 2005)。インフォームド・コンセントとは、「説明を受ける側が納得できるような説明を行った上で得られた同意」を意味します(氏原・他 2004)。厚生労働省個人情報保護委員会(2017)では、「本人の同意を得(る)」とは、本人の承諾する旨の意思表示を当該個人情報取扱事業者が認識することをいい、事業の性質及び個人情報の取扱状況に応じ、本人が同意に係る判断を行うために必要と考えられる合理的かつ適切な方法によらなければならないとしています。なお、個人情報の取扱いに関して同意したことによって生ずる結果について、未成年者、成年被後見人、被保佐人及び被補助人が判断できる能力を有していないなどの場合は、親権者や法定代理人等から同意を得る必要があります。

 インフォームド・コンセントとして、相手がどのような人であっても、(1)本人に適切な説明を行う、(2)本人に承認を求める、(3)本人がなにを好み、本人にとってなにが最大の利益となるかを考慮する、および、(4)法的に代理同意が認められている、もしくは義務付けられている場合、法的権限保有者から適切な許可を得る、といったことをおこないます(APA 2017、Nagy,T.F. 2005)。

情報提供が守秘義務に優先される場合

 個人情報保護法では、本人の同意を得ることなく第三者に情報を提供することができる例外を以下のように定めています。

  • 法令に基づく場合。
  • 人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
  • 公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。
  • 国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。

など(個人情報保護法第27条、厚生労働省 2010)。

 虐待防止に関連する各法律では、守秘義務に関する法律の規定は、虐待が疑われる場合に通報をすることを妨げるものと解釈してはならないとしています(児童虐待の防止等に関する法律第6条、高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律第7条、障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律第7条)。 

 その他の秘密保持の例外状況としては、以下のようなものが考えられます。

  • 明確で差し迫った生命の危険があり、攻撃される相手が特定されている場合
  • 自殺等、自分自身に対して深刻な危害を加えるおそれのある緊急事態
  • 医療保険による支払いが行われる場合
  • クライエントが自分自身の精神状態や心理的な問題に関連する訴えを裁判等によって提起した場合

など(岩壁・他 2018)。

 ただし、正当な理由で本人の同意なしに秘密情報が開示される場合でも、開示するのは、その目的を達成するのに最低限必要な情報だけに限られます(APA 2017、Nagy,T.F. 2005)。

【APAの倫理基準原文(2002)と、分かりやすい解釈、事例が書かれています。事例には、考察の余地が残されており、それをもとに倫理について考えを深めていくことができるようになっています。倫理について学ぶにはとてもよいテキストだと思います。】

関連問題

●2021年-3問78 ●2020年-問78 ●2019年-問39問126 ●2018年(追加試験)-問42問65問78問153 ●2018年-問47問63問147

参考・引用文献

  • American Psychological Association 2017 Ethical Principles of Psychologists and Code of Conduct
  • 岩壁茂・金沢吉展・村瀬嘉代子 2018 公認心理師の職責 一般財団法人 日本心理研修センター(監修) 公認心理師現認者講習会テキスト 2018年版 金剛出版 p.4-43
  • Jonsen, A. R., Siegler, M., Winslade, W. J. 2015 Clinical Ethics: A Practical Approach to Ethical Decisions in Clinical Medicine, 8th Edition. McGraw-Hill Education
  • 厚生労働省 2010 医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取り扱いのためのガイドライン 平成22年9月17日改正
  • 厚生労働省個人情報保護委員会 2017年 医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取り扱いのためのガイダンス(令和4年3月一部改正)
  • Nagy,T.F. 2005 Ethics in Plain English: An Illustrative Case book for Psychologists, Second Edition. Washington, DC: American Psychological Association村本詔司(監訳)2007 APA倫理基準による心理学倫理問題事例集 創元社
  • 日本心理学会倫理委員会 2011 公益社団法人日本心理学会倫理規定 第3版 公益社団法人日本心理学会
  • 氏原寛・亀口賢治・成田善弘・東山紘久・山中康裕 2004 心理臨床大事典(改訂版) 培風館