公認心理師法における公認心理師の仕事として、心理に関する支援を要する者(クライエント)の心理状態の観察、その結果の分析と、援助が挙げられています。
この観察及び分析のうち、観察は情報収集のための一つの方法です。
情報収集は、本人の話から、目の前で話をする本人の様子から、各種検査から、可能であれば日常場面の本人の言動から、場合によっては関係者から等、様々な水準からおこなわれ得ます。
情報を収集する方法には様々なものがありますが、どのような場合であっても絶対に取らなければならない方法というものはありません。
観察と分析において、必ず心理検査がおこなわれるということも、必ず日常場面での観察がおこなわれるということもありません。基本的にはまず目の前のクライエントから情報を収集し、必要性や実現可能性に応じて、その他の方法がとられていくことになるでしょう。
これらによって得られた情報を、分析してつなぎ合わせていくことで、一面的で平面的なクライエント像でなく、多面的で立体的なクライエント像を描き出し、より適切な援助へつなげていくことになります。
このように、クライエントを観察し分析することの目的の1つは、それによってより有効な援助につなげていくということです。
援助に関しても、各種心理療法や集団による援助、心理教育をおこなったり必要な社会資源につなげたり、より適切な支援機関へリファーを検討したりと様々な選択肢がある中で、より有用なものを選択し提供するためには、闇雲に進めるのではなく、観察と分析に基づいたクライエントの理解に基づいて進めていく必要があります。
例えば、病院に来た人全ての人に、観察や分析なしに一様に風邪のための薬を処方するという援助をおこなうことが適切でないことは想像に難くないでしょう。風邪薬は風邪をひいている人に対して有効な援助方法であって、骨折をしている人には必ずしも有効ではありません。病院に来た人に対して、観察し分析して風邪であるとすることで、風邪薬を処方するという有効な援助が可能になるのです。これが風邪薬でなく他の劇薬であった場合を考えてみると、観察し分析するといった過程を踏まない援助が、有効でないといった結果にとどまらず、害にすらなり得ることが想像できるでしょう。
このように、クライエントを観察し分析した先に、援助の提供があるという過程は、心理臨床においても同様です。
つまり、観察及び分析がなされて、それに基づいて援助が提供されるのであって、観察・分析することなしに援助が提供されるということは基本的にはないと言えるでしょう。
観察し分析して、援助をおこなうという一連の過程は、援助をすることで終わるのではなく、援助の結果をさらに観察、分析してよりよい援助につなげていくという循環を形づくります。観察、分析によるクライエントの理解は絶対的なものでなく、常に暫定的なものです。
観察および分析に基づいて援助を行った結果、新たな要素や当初の分析からは予測がつかなかった結果が観察されたような場合に、それを踏まえて分析の内容を修正し、修正されたものに基づいた援助がおこなわれるといった循環がなされていきます。
参考文献
一般社団法人日本心理研修センター(監修) 2019 公認心理師現任者講習テキスト 2019年版 金剛出版