実験法

実験法

自然科学の研究において、研究の目的は普遍的な因果関係の法則を見出すことです。因果関係とは、先行する事象とそれに続く事象との間に原因と結果の関係が成り立つ関係のことです。なぜ因果法則を見出すことが目的になるかといえば、それはすなわち現実をコントロールすることにつながるからです。

例えば、公認心理師試験に合格したいと思ったとします。そんな時、なんと、当サイト『公認心理学』で勉強をすれば公認心理師試験に合格するという因果関係の法則がわかっていれば、他の様々な方法を試さなくても、『公認心理学』で勉強すればいいということになるわけです。同じように、ある介入をすることで精神疾患が治癒することが分かっているならば、治癒は確実なものとなるでしょう。

この因果法則を解明するための研究方法に実験があります。実験とは、行動を引き起こす条件を明確にし、条件と行動との関数関係を定立するために、人為的条件を設定して観察、記録、測定することです。この“人為的に条件を設定する”という点が、実験の特徴です。

上記の例にある、「『公認心理学』で勉強をすれば(原因)、公認心理師試験に合格する(結果)」という因果関係を証明するためには、一つとして、ある人達には『公認心理学』だけで試験勉強をしてもらい、またある人達には『公認心理学』以外で勉強してもらい、その後試験結果を比べて、前者の合格者が後者の合格者よりも十分に多ければ、「『公認心理学』で勉強することと公認心理師試験に合格することの間には因果関係がある」と言えるかもしれません。もしも、因果関係がなければ、どちらの方法であっても合格者数に大きな違いはないでしょう。

しかし、それを実行しようといざ自分が活用できる環境を見渡した時に、都合よく自然と条件が満たされるといったことは期待し難いものです。こういった条件を人為的に設定していくのが実験です。処遇を受ける群を実験群、処遇を受けない群を統制群とよびます。

独立変数、従属変数

研究では、物事の原因とみなされる要因を独立変数とよび、それに伴う結果とみなされる要因を従属変数とよびます。独立変数はシステムへの入力、従属変数はシステムからの出力とも捉えられます。実験では、この独立変数を操作して従属変数が連動するかを調べます。上記の例でいえば、『公認心理学』で勉強するかどうかが独立変数で、試験の合否が従属変数です。

ただし、現実的には、独立変数として想定しているものの他にも、従属変数に影響を与え得る可能性がある要因が多く存在します。試験の合否には、『公認心理学』で勉強するかしないかの他にも、元々持っている知的能力、自信の程度などが影響しているかもしれません。他にも、勉強時間が違えば当然試験結果に影響が出てくるでしょう。

剰余変数の統制

このような独立変数と従属変数以外の要因を剰余変数といます。この剰余変数に適切に対処しておかないと、「『公認心理学』で勉強すれば、試験に合格する」という実験結果が出たとしても、ただ独立変数として扱っていないだけで、本当は知的能力や自信、勉強時間の程度といった剰余変数が合否の原因なのかもしれないと考えられてしまいます。

剰余変数の影響を無くすためには、独立変数以外の要因をすべて一律にしてしまえば良いはずです。知的能力も自信も勉強時間の程度なども同じにして、『公認心理学』で勉強するかしないかだけを変えれば、もしも結果に違いがあればそれは『公認心理学』で勉強したかしないかによるものだといえるでしょう。

そのためには、比べる人たちの集まりで偏りができないように注意しなければなりません。例えば、『公認心理学』だけで勉強する人たちの群の中に、知的能力が高い人が集まったり、自信満々の人が集まったりしてしまうと、それらが結果に大きな影響を与えることになります。そのため、そうならないように乱数表などをつかってランダムに振り分けます。個人を条件にランダムに振り分けることを無作為配分といいます。例えば申し込み順に群を振り分けてしまうと、早く申し込む人ほどやる気があったり、行動力があったりといった人たちが固まっている可能性が考えられるでしょう。そうして、個人間の要因が均一になるように配慮をします。

それでは手っ取り早く、複数の人ではなく、様々な要因が同じである一人の人を対象にして、はじめは『公認心理学』では勉強せずに試験問題を解いてもらい、その後に『公認心理学』で勉強して試験問題を解いてもらうということも考えられるでしょう。集団間を比較する場合のほかにも、このような個人間の違いに目を向けて実験すことはできますが、この場合でも同様に個人内の要因が均一になるように注意をする必要があります。個人であっても、状況によって個人内にある各要因に差がでてくるからです。

例えば、2回目の勉強は1回目の知識の上に知識が蓄積されるので知識量がはじめから違うことになりますし、2回目の勉強では飽きて効率が下がってしまうかもしれません。

個人内の要因で統制が難しいものとしては、錯視量が知られています。
錯視量は、ミューラー・リヤーの錯視図形を用いてはかることができます。斜線が外側を向いた外向図形の書かれた紙と、斜線が内側を向いた内向図形が書かれた紙を、内向図形が手前にくるようにして片側の斜線部分を重ねます。そして、見た目の主線の長さが同じになるように調整をするのです。ただし、調整においては、明らかに長い所から縮めていく下降試行と、明らかに短いところから伸ばしていく上昇試行とでは、下降試行の方が錯視量が大きくなりやすいことが知られています。また、同じ錯視図形を繰り返し見ているうちに錯視量が小さくなっていくことも起こります。

このように同一個人を対象にした実験であっても、試行の方法によって結果が変わりかねないのです。そのため、内向図形と外向図形の位置や、上昇試行と下降試行の順番を無作為に変えて複数回試行するような方法が取られます。原理的には、個人間要因を均一にするためにおこなわれる無作為配分と同じ物です。

無作為化は、実験において剰余変数を統制するために、重要な手続きの一つです。

参考文献

  • 南風原朝和・市川伸一・下山晴彦 2001 心理学研究法入門‐調査・実験から実践まで 東京大学出版会
  • 岡野陽太郎・岡隆(編) 2004 心理学研究法‐心を見つめる科学のまなざし 有斐閣アルマ