動機づけ

動機づけ理論

 動機づけとは、行動の理由を考えるときに用いられる大概念であり、行動を一定の方向に向けて生起させ、持続させる過程や機能全般をさします(中島他 1999)。行動が生起するために必要な内的状態である欲求や、外的条件である誘因、これらが出会うことで生じる動因などを含むものとも考えられますが、動機づけをどのように捉えるかは立場によって様々です。

 様々な動機づけのうち、活動それ自体が目的で、その活動の遂行から得られる満足以外に明白な報酬を受け取らないとき、それは内発的動機づけにもとづく行動とされます(橋口 1997)。内発的動機づけは、動因理論への反論として形作られていったという経緯があります(鹿毛1994、中島他 1999)。動因理論とは、動機づけの説明として生活体の内的緊張状態を強調し、その緊張状態の解消が行動を動機づけるとする理論で、フロイト(Freud, S.)の精神分析理論や、ハル(Hull, C. L.)の動因低減説などが含まれます(山下 1997)。この動因理論では、動物の探索行動などを説明することができませんでした。そこで、新たな動機づけ概念を提唱しようとする試みがなされ、その中で内発的動機づけが提唱されました。

 内発的動機づけは、それを抑制したり、促進したりする要因が注目され、検討されていくようになります。内発的動機づけは1960年代に提唱されたのち、Deciの研究を契機に研究が増加していきました(碓井,1992)。Deci(1971)は、外的報酬が活動に対する内発的動機づけに及ぼす影響を調べるために実験をおこない、(a)外部報酬として金銭を用いた場合は内発的動機づけが低下する傾向があり、(b)言語強化やポジティブフィードバックを用いた場合は内発的動機づけが上昇する傾向があることを示しました。そして、これに続く研究をおこない、外的報酬には、「制御」の側面と「情報」あるいは「フィードバック」の2つの側面があることに注目し、支配的側面が内発的動機の減少をもたらし、フィードバック側面がその人の有能感や自己決定力を高めることによって内発的動機の増加をもたらすと考えました(Deci,1972)。このように内発的動機づけが外的報酬によって低減されることを、アンダーマイニング効果と呼びます。

 内発的動機づけに対して、活動が外的報酬の獲得や罰の回避といった何か他の目的のための手段としておこなわれるときに外発的動機づけにもとづく行動と言われます(橋口 1997)。

 動機の種類は、内発的動機や外発的動機以外にも、ある優れた目標を立て、それを高い水準で完遂しようとする達成動機や、他の人と友好的な関係を成立させそれを維持したいという親和動機などがあげられます(中島他 1999)。

関連問題

●2022年-問4 ●2018(追加試験)-問56問125 ●2018-問145

引用・参考文献

  • Deci,E.L. 1971 Effects of externally mediated rewards on intrinsic motivation. Journal of Personality and Scia1 Psychology, 18, 105-115.
  • Deci,E.L. 1972 Intrinsic motivation,extrinsic reinforcement and inequity. Journal of Personality and Social Psychology, 22, 113-120.
  • 橋口捷久 1997 内発的動機 日本行動科学学会(編) 動機づけの基礎と実際 川島書店 160-170
  • 中島義明・安藤清志・子安増生・坂野雄二・繁桝算男・立花政夫・箱田裕司(編) 1999 心理学辞典 有斐閣
  • 鹿毛雅治 1994 内発的動機づけ研究の展望 教育心理学研究42 345-359
  • 碓井真史 1992 内発的動機づけに及ぼす自己有能感と 自己決定感の効果 社会心理学研究7(2)85-91
  • 山下光 1997 動因理論 日本行動科学学会(編) 動機づけの基礎と実際 川島書店 27-33