学習理論

学習理論

ワトソンの行動主義

 かつて哲学者によっておこなわれていた心の研究は、自然科学の発展の影響をうけて次第に科学的な方法を用いておこなわれるようになっていきます。精神物理学などがそうです。そういった流れをうけて、ヴント(W.M.Wundt)が1879年にドイツのライプチヒ大学に心理学の実験室を開設します。一般的に、この年が実験心理学成立の年と言われています。実験的に心を研究しようにも、意識そのものに直接触れることはできないため、ヴントの研究では、被検者が実験という統制された条件のもので刺激が与えられた時に自分の意識がどう変化したかを口頭で報告する内観という方法がとられていました。

 これに対して、ワトソン(J.B. Watson)は、内観法には客観性がないと批判しました。1913年には、心理学は客観的で観察可能な行動のみを統制された実験などの方法によって研究する必要があり、刺激と反応の関係を調べることで行動の予測とコントロールをおこなう事が目的となるという主張をおこないました。ワトソンは、心理学の応用的、実用的な利用を意識していたと考えられます。この行動主義宣言と称される主張によって、行動主義がはじまったとされます。

ワトソン以前

 ただし、ワトソン以前にも、意識を取り扱わない研究自体はおこなわれていました。ロシアのパヴロフ(I.P.Pavlov)は、生理学的な視点から研究を進める中で、唾液や胃液の分泌はエサに直接触れずにただ見るだけでも生じる事を確認しました。この精神な過程を含む反射は精神的反射とよばれ、やがて餌を見せるのではなくメトロノームの音のような任意の刺激でも生じる事が確認されました。精神的反射は、餌によって唾液が分泌されるといったような生得的な刺激に無条件で生じる反射に対して、それまで無関係だった刺激が近接する時間に提示されることで形成されることから、条件反射と呼ばれるようになります。

 意識を扱わない研究はワトソン以前にもあったのと同じように、心の本質を追求していくよりも心の機能に重きをおいた研究も、ワトソン以前にもありました。ソーンダイク(E.L.Thorndike)は、ネコの試行錯誤学習の実験を進める中で、ある行動に対して満足を得る状況がもたらされれば、その状況と行動との結合は強まり、逆に不快な状況をもたらすような場合は行動との結合は弱まるという効果の法則を提唱しました。

 こういった内観に頼らない実験や機能を重視する価値観が展開していく中で、ワトソンの行動主義宣言がなされたのです。ワトソンの影響によって、特にアメリカでは実験や観察を通して行動を扱う心理学が主流となっていきます。

ワトソン以降

 トールマン(W.C. Tloman)は、学習における認知を重視し、潜在学習の実験をおこなったことで有名です。トールマンは、迷路学習の際、最初からゴールに置かれた餌をめざす訓練をおこなったラットと、練習の途中からゴールに餌が置かれるようになったラットで違いがあるかを調べました。その結果、最初からゴールに餌が置かれていたラットの場合、誤った道に迷い込んだ数が練習を通して徐々に減っていくのに対して、練習の途中からゴールに餌が置かれるようになったラットの場合は、餌の導入とともに急激に減り最終的に練習のはじめから餌が置かれていたラットと同じ程度になることを確認しました。そして、トールマンは、ラットは報酬が与えられなくても潜在的な学習をおこなっており、餌はその結果を顕在化させるにすぎないと考えました。
 ミラー(N.E. Miller)とダラード(J. Dollard)は、T字迷路を用いてラットに迷路を学習させた後、まだ学習していないラットをすでに迷路を学習したラットと一緒にT字迷路に入れると、最初のラットよりも早く学習することを確認し、これを社会的学習と呼びました。
 バンデューラ(A. Bandura)は、観察学習(モデリング)の実験をおこないました。実験では、子どもを、大人の攻撃行動を直接見る群と、大人の攻撃行動をモニター越しで見る群、アニメのキャラクターが攻撃行動を行っているのを見る群、攻撃行動を見ない群とにわけ、その後の人形に対する行動の違いを観察しました。すると、攻撃行動を見た群の8割以上の子供が攻撃行動をおこなうことが観察されました。

 また、嫌悪的な刺激を用いた研究もおこなわれました。私たちは嫌な刺激がなくなるように行動したり、嫌な刺激がでてこないように行動したりします。前者は逃避、後者は回避と呼ばれ、それぞれ研究されています。
 セリグマン(M.E.P.Seligman)らはイヌを用いて、特定の先行経験をもつ個体は逃避行動をおこさないという学習性無力感の実験をおこないました。ハンモックに固定された犬に電気刺激を与え、顔の横にあるプレートを押すと電気刺激が止まる群と、何をしても電気刺激が止まらない群とでその後の行動を比較します。その後、電気刺激の回避が可能な部屋に入れて電気刺激を与えると、事前にどんな行動をしても電気刺激が止まらなかった群では、逃避しようとする行動が見られませんでした。これは、抑うつと関係する実験的理論として知られています。
 ガルシア(J.Garcia)らはラットを用いて味覚嫌悪学習の実験をおこないました。この実験では、まず、飲むたびに光と音が提示される水と、味がついている水をラットに飲ませておきます。それから、飲むたびに光と音が提示される味付きの水を、ある群にはそれと同時に体調不良を伴うⅩ線を当て、違う群には電気刺激を提示します。そして最後に、飲むたびに光と音が提示される水と、味がついている水を飲む量を比較します。すると、X線を当てられた群では味付きの水を飲む量が減った一方で、電気刺激を提示された群は光と音が伴う水を飲む量がへりました。これによって、すべての刺激が同じように条件刺激として機能するわけではないということなどを明らかにしました。

 行動に関する理論が様々に展開される一方、スキナー(B.F. Skinner)は行動に関する理論はつくらず、ある行動が起こったこととその時に起こった外部の環境の変化との間には必ず何らかの関数関係があり、それを記述することに徹するべきだと主張しました。そうして研究を進める中で、動物の行動には特定の刺激によっておこされるレスポンデント行動と、必ずしも特定の刺激があるわけではない状態で自発的にオペラント行動があることを見出し、パブロフの流れをくむ古典的条件づけと、ソーンダイクの流れをくむ道具的条件づけを区別し整理しましてオペラント行動の研究の基礎を築きました。

関連問題

●2018年-問5問23 ●2019年-問75問82 ●2020年-問10問84 ●2021年-問8

参考文献

  • 大芦治 2016 心理学史 ナカニシヤ出版
  • 小野浩一 2005 行動の基礎 豊かな人間理解のために 培風館
  • 齊藤勇 2011 図説社会心理学入門 誠信書房