視覚

視覚

眼の構造

 視知覚のために必要な感覚器官は眼です。眼球は直径20mm強のほぼ球形で、外界から体内へという方向を想定したときに、最外層に角膜があり、中間層には水晶体が、最内層には網膜があります。そして、これら3つの層が透明なガラス体を包んでいる構造になっています。このうち、最内層にある網膜は光受容器として最も肝心な部分です。厚さ0.2mmといわれる網膜はさらに3層にわかれており、一番奥の層に光受容細胞として桿体と錐体の2種類の視細胞があります。この視細胞は、光を受けてその情報を神経情報(電気信号)に変えるエネルギー変換器としての機能があります。光エネルギーは視細胞を通して神経情報となり脳へと流れていくわけです。
 また、網膜の中心には直径0.33mmの中心窩と呼ばれるくぼみがあります。この部位では水晶体から中心窩への光の経路の途中にある組織が横にかき分けられていて、網膜の一番奥の層にある視細胞に効率よく光が到達できるようになっているのです。中心窩にある視細胞は錐体だけですが、網膜周辺では桿体が大部分を占めています。また、明るい所では錐体、暗い場所では桿体が機能的に優勢になり、それぞれを錐体視、桿体視と呼びます。錐体視と桿体視では、光の波長に対する感度のピークが異なり、錐体視では赤系の光の波長帯、桿体視では青系の光の波長帯にそれぞれのピークが存在します。そのため、暗くなるにつれて桿体視が優勢になり、赤よりも青系統の色が相対的に明るさを増して感じるようになります。これをプルキンエ現象と呼びます。

明暗の知覚

 明るさの感じ方は、視対象と周囲との関係によって変わってきます。同じ濃さの灰色の四角を比較した際、その見え方は当然ですが同じです。しかし、この四角の背景となる領域を、より明るい色とより暗い色で塗り分けた場合、中心の四角の見え方が変わります。より明るい色の背景の四角の方がより暗く、より暗い背景の方がより明るく見えるようになります。これを明るさの対比効果と呼びます。
 また、段階的に明るさの異なる領域が隣接して配置されている図においては、同一の明るさの領域であっても、暗領域と接する端の部分は、他方の部分よりも明るく見えます。この現象をマッハ現象と呼び、段階波のパターンをマッハの帯と呼びます。

形の知覚

 眼球と閾値以上の適刺激があれば視覚による形の知覚が成立するかというと、そうとは限りません。光の波長、強度などが存在しても、それらが完全に均質な場合には、そこに形と呼ぶべき対象は存在しないということになるので、当然形を知覚することはできません。光の波長、強度など全体が完全に均質である視野を全体野と呼びます。卓球のボールを二つの半球に分けて両眼を覆い、強い照明光に眼を向けると、全体野を体験することができます。全体野では視野全体が等質な光に満たされて焦点すら定まらない状態になりますが、ボールの表面にシミをつけると、そこに非均質な領域が知覚されて全体野は崩れます。視野に明暗の非等質な領域があってはじめて何かが見えるようになるのです。

 また、私たちの眼は、動かさないようにしても意思ではコントロールできない急速で、かつわずかな動揺があります。その結果、網膜に投射される対象の像もたえず網膜上でその位置を変えているのです。これを、例えばコンタクトレンズなどを用いて、眼が動けば網膜像も連動して動くようにして止め、つねに対象が網膜の同一位置に投射されるようにすると、対象は形態要素あるいは意味単位ごとに崩壊、消失、再現を繰り返して、ついには見えなくなってしまいます。このように人為的な方法で網膜上に静止像を作り出すこと、あるいは作り出された像を静止網膜像と呼びます。この静止網膜像からもわかるように、眼の微細な動きも形の知覚に不可欠なものなのです。

 上記のような条件が整って形が知覚されるようになります。そして、明暗の急激な差があれば輪郭が発生します。視野の中で形をもって浮き出て見える領域を図、その背景となって見える領域を地といいます。人の横顔と杯の二通りの見え方が交替する図形を例に挙げれば、人の横顔が見えている時は人の横顔の領域が図でそれ以外が地に、杯が見えている時は杯の領域が図でそれ以外が地になっているということです。ルビン(Rubin,E.)はその図形の観察を通じて、同一の領域でも図と地の役割が異なると全く様相が異なることを指摘しました。図と地の現象的差異について①図となった領域は形をもつが、地は形をもたない。②二つの領域を分ける境界線は、図となった領域の輪郭線となり、図の領域の末端として図に所属し、地はそこで終わらず、図の下にまで広がっている印象を与える。③図は物の性格をもち、地は材料の性格をもつ。④図となった領域は地となった領域よりも色が堅く、密で、定位が確定的である。⑤一般に図は観察者の方の近く定位される。⑥図は地よりも印象的であり、意識の中心となりやすい。したがって、図は記憶されやすく、意味を担いやすい。といったことが指摘されています。

 視覚情報を知覚する際には、刺激の客観的な性質と異なって知覚される事があります。平面図形の幾何学的性質(大きさ、長さ、距離など)が、刺激の客観的性質や関係より、組織的にかつ相当量異なって知覚される現象を幾何学的錯視と言います。ミュラーリア―図形、デルブフ図形、ポンゾ図形などが有名です。

 他にも、客観的な刺激の性質と知覚のずれが生じる現象としては、移動しつづける物体と並んで点灯する刺激が点いた時、点灯した刺激は移動する物体に対して遅れた位置で見えるようになるフラッシュラグ効果なども知られています(Nijhawan, R.  2002)。

 日常的には、視野にある一つの領域だけが図を知覚させるのではなく、いくつかの個々の図が相互にまとまって一層大きな全体としての集合をつくり、それが全体的な図として知覚されることが一般です。独立した要素がばらばらではなく相互に関連し合って秩序ある統合的全体を構成する状態のことを体制化といいます。知覚の体制化については、ゲシュタルト心理学において精力的に研究が行われてきました。ヴェルトハイマー(Wertheimer,M.)は、知覚の体制化が簡潔・単純な方向に向かって起こる傾向をプレグナンツの傾向として指摘しました。ただし、簡潔・単純な方向というのは、必ずしも規則性があることや相称的であることではありません。
 この知覚の体制化にはいくつかの要因が関連しており、それらの要因はゲシュタルト要因と総称されます。ゲシュタルト要因には様々なものがあり、他の条件が等しければ、近い距離にあるものがまとまりをつくるとする近接の要因、運動と静止をともにするものがまとまる傾向をもつとする共通運命の要因、類似した性質のものがまとまりをつくるとする類同の要因、滑らかに連続するものがまとまりをつくるとするよい連続の要因などが知られています。

 形に関する情報はイメージとしても処理されます。向きが異なる同じ図形の対か鏡映関係にある図形の対かどちらかを呈示し、被検者に異同判断を行わせると、反応時間は、図形対の角度差が大きくなるにつれて増大します。つまり、回転角度が180度までおおきくなるにつれて、反応に時間がかかるようになるのです。この結果は、被験者が一方の図形を心的イメージとして回転させ、照合を行っていると解釈でき、メンタルローテーションの問題として研究がなされました。私たちが地図を見るとき、自分が北に近い方角を向いているときには地図を正位置で読みやすいけれど、南を向いているときには地図を正位置で読むことは難しくなるでしょう。こういったことから、回転角度の大きさが反応の難しさと関連していることが実感できます。

色の知覚

 色をどのように知覚するのかといった事については、いくつかの考えがあります。ヤング=ヘルムホルツ説は、T.Youngが3つの主要な色に対応する感覚線維を視覚神経に仮定する考えを発表し、H.L.F von Helmholtzがその業績を評価しつつ独自に構想したものです。その内容は、「網膜には光によって光化学的に分解される3種の物質があり、その分解はそれぞれ個別の神経線維を興奮させ、個別の感覚を引き起こす。3種の物質は光の各スペクトル部分に対して異なった感受を示し、したがって神経線維の興奮も3様を示すことになり、それぞれが引き起こす感覚は赤、緑、青と対応する。網膜に当たった光にどのような色を感受するかは、3種の神経線維の興奮の比率関係によって決まる」といったものです(松田 1995)。

 へリング説は、現象学的な立場を重視してK.E.K. Heringによって述べられた色覚説です。ヤング・ヘルムホルツ説の通り、黄色は赤と緑を混ぜる事で生じますが、黄色の中には赤と緑が認められないため、黄色も赤や緑や青と同様に純粋な色だと仮定し、この4色が混ざることで他の色が生じると考えました。また、混じりあったものの中に、赤と緑を同時に見る事や、黄色と青を同時に見る事はないといったことから、それぞれを対立する色としました。同じように、無彩色の白も独立の色と仮定して理論をつくっていったのです。その内容は、「網膜には、赤-緑物質、黄-青物質、白-黒物質という3種の物質が存在する。各物質は、光によってそれぞれ対立的な化学変化(同化と異化)を起こし、3種の物質の異化過程は、順に、赤、黄、白の感覚をもたらし、同化過程は、緑、青、黒の感覚をもたらす。赤、黄、緑、青の各単色スペクトル光は、特定の一つの物質に異化または同化を起こすだけであるが、他の単色光や複合光は光の特性に応じて各物質に同化と異化を起こす。どのような色を知覚するかは、3種の物質の同化-異化過程の状態によって決まる」といったものです(松田 1995)。これらの理論はそれぞれ三色説、反対色説と呼ばれて発展を続けていく中で、いずれの理論にも生理学的な根拠がある事がわかりました。そこで、最初の段階での3色系の情報が、次の段階で反対色系の情報に変換されるという事を説明するために、段階説と総称される新たな理論が展開されていきます。

 こういった流れの中で、L.M. HurvichとD. Jamesonは、反対過程説を提唱しました。反対過程説では、第一段階として錐体に3種の感光物質を仮定し、第二段階ではこれらが青-黄、緑-赤、明-暗という反対反応系の細胞に結合して興奮を引き起こし、第三段階で網膜から中枢につながる神経反応が生じるとします。この反対過程説は、順応や残効といった色覚の基本的な現象をよく説明しますが、説明の精度を高めるためには他の補助仮説が必要ともされています。

 色の知覚の性質についても様々なものが知られています。ある色の水平方向の線と異なる色の垂直方向の線を交互に提示すると、線の向きに依存した色彩の残効を体験することができます(McCollough ,C. 1965)。例えば、赤と黒の縦縞と緑と黒の横縞を約10秒ずつ交互に約20分観察した後で白と黒の縦縞と横縞とで構成される検査縞を見ると、縦縞の部分は緑に、横縞の部分は赤に見えます(吉岡・市原 1998)。これをMcCollouge効果と呼びます。

奥行き知覚

 網膜に映る外界の像は二次元的ですが、視知覚は三次元的になされます。空間の三次元性の知覚は奥行き知覚と呼ばれます。奥行き知覚を成立させる要因は様々な側面から分類することができますが、その一つに片眼視での手掛かりと両眼視での手掛かりがあります。
 片眼視での手掛かりとしては、例えば、経験学習的な要因として、網膜像での位置関係や重なりといった相対的位置と重なりの手掛かりや線遠近法による手掛かり、きめの密度勾配の手掛かり、光と陰影の手掛かり、図形の不規則性すなわち不均斉性の手掛かりなどがあります。

 両眼視での手掛かりとしては、ひとつとして両眼の輻輳作用が知られています。外界の対象を両眼で見るときに、注視している対象が両眼の対応する網膜部位で結像しないと二重像になってしまいます。この二重像を避けて単一像を得るための両眼の回転運動を輻輳といい、両眼の視線が注視点に収束してできる角度を輻輳角といいますが、これらが奥行き知覚の生理学的手掛かりとなっていると考えられます。これと関連して、両眼の視線方向の差である両眼差視なども両眼視での手掛かりになっていると考えられます。

運動の視知覚

 踏切の警報機がなるときに点滅する2つ並んだ赤色の警告灯は、点滅のタイミングが異なっているだけなのですが、灯りが一方からもう一方へと移動しているように見えます。このように、対象A,Bを適切な時間間隔をおいて、異なる地点に交互に呈示するときに知覚される対象の運動を仮現運動といいます。この現象はβ運動とも呼ばれます。刺激を呈示する間隔の時間の長さによって知覚のされ方は異なり、約30ミリ秒以下では2光点の同時点滅が知覚され、運動は知覚されません。また、約200ミリ秒以上では、2光点の継時的な点滅が知覚され、運動は知覚されません。約60ミリ秒で2光点間のスムーズな動きが知覚できますが、このときに得られる滑らかで鮮やかな運動印象を特に、ファイ現象と呼びます。
 他にも、幾何学的錯視図形の、例えばミュラー-リヤー図形で、主線の両端の矢羽を内向きと外向きに交互に呈示すると、矢羽のβ運動とともに、物理的には等しい主線の長さに滑らかな伸縮運動が知覚されますが、この仮現運動の一種をα運動といいます。さらに、第一の刺激対象を黒地に白、第二の刺激対象を白地に黒として、両対象を交互に呈示すると、第一から第二へのβ運動だけでなく、黒から白へ、白から黒への色の質的変化を伴う運動が知覚され、これをε(イプシロン)運動といいます。

 仮現運動は、上記のようなもののほかに、広義には物理的運動が存在しないにも関わらず知覚される運動も含みます。夜空を見上げた時に、ゆっくりと流れる雲に着きが囲まれている状況では、月が動いて見えます。他にも電車に乗っているときに、窓から見える向かいの電車が動き出したにも関わらず、自分の乗っている電車が動き出したように感じることもあります。客観的に動いている物と静止しているものがある時、静止している物に対して知覚的に動きを感じることがあり、誘導運動と呼ばれます。
 また、滝の落下を2~3分間持続視してから、周囲の景色に目をやると、景色が一斉に上昇して感じられます。一定方向に一様に移動している外界の対象を、眼を動かさないで見続けた直後は、客観的には動いているはずのない対象が動いて見えます。この現象を運動残効と言います。一方向に回転している渦巻をしばらく見た後、渦巻の回転を止めると逆方向に運動が起こったりもします。他にも、暗闇の中1個の静止している光点を注視し続けると、その光点が色々な方向に不規則に動いて見え、この現象を自動運動と呼びます。

関連問題

●2019年-問81 ●2020年-問6 ●2021年-問84

参考文献

  • 松田隆夫 1995 視知覚 培風館
  • McCollough ,C. 1965 Color adaptation of edge detectors in the human visuai system ,Science,149,1115 −1116
  • 無藤隆・森敏昭・遠藤由美・玉瀬耕治 2018 心理学新版 有斐閣
  • 中島義明・安藤清志・子安増生・坂野雄二・繁桝算男・立花政夫・箱田裕司(編) 1999 心理学辞典 有斐閣
  • Nijhawan, R.  2002  Neural delays, visual motion and the flash-lag effect. Trends in Cognitive Sciences, 6, 387-393.
  • 吉岡 徹、市原 茂 1998 マッカロー効果(方位随伴性色残効)の決定因について一部分か全体か デザイン学研究年 44(5)p. 21-26
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