印象形成

印象形成

 他者に関するさまざまな情報を手掛かりにして、パーソナリティ、能力、情動、意図、態度など、人の内面に潜む特性や心理過程を推論する働きかけのことを対人認知といいます。初めて出会った人から得られる情報は、限定的な言語的情報であったり、外見や表情、しぐさなどの非言語的な情報であったりしますが、それらが断片的でばらばらなものであっても人はその人物に対してかなりまとまりのある全体像を形成することができます。このような対人認知の側面を印象形成と呼びます。印象形成という語はアッシュ(Asch,S.E.)によって初めて用いられました。

 以下のような人にどんな印象を抱くでしょうか。

“知的な、器用な、勤勉な、あたたかい、決断力のある、実際的な、用心深い”人。

 では、以下のような人にはどんな印象を抱くでしょうか。

“知的な、器用な、勤勉な、つめたい、決断力のある、実際的な、用心深い”人。

 アッシュは性格特性が複数書かれているリストを2つ用意して被検者の前で上から順に読み上げた後に、全体的な印象を答えてもらう実験を行いました。2つのリストは真ん中に位置する単語が違うだけで(“あたたかい”と“つめたい”)、ほかの単語はすべて同じだったのですが、形成された印象は大きく違いました。また、“あたたかい”と“つめたい”のかわりに“礼儀正しい”と“無遠慮な”を入れ替えた場合には、形成された印象に大きな違いはありませんでした。全体的印象に大きく影響を与える情報を中心的特性、あまり影響を与えない情報を周辺特性と呼びます。

 それでは、以下のような人にはどのような印象を抱くでしょうか。

“知的な、勤勉な、衝動的な、批判的な、頑固な、嫉妬深い”人。

 では、以下の人の印象はどうでしょうか。

“嫉妬深い、頑固な、批判的な、衝動的な、勤勉な、知的な”人。

 形成される印象は、情報が呈示される順序によっても異なることが知られています。このように、情報が与えられる順序によって形成される印象が異なる現象は、情報の提示順序効果と呼ばれます。特に、最初に呈示された情報が全体印象を決定づけるという現象を初頭効果といい、後半に提示された情報が全体印象を規定する現象は新近効果といいます。

 印象形成の過程では、様々な認知バイアスが生じやすいことが知られています。望ましい特性については他者をよく評価し、望ましくない特性についてはそれほど厳しくなく寛大に評価する傾向を寛大効果といいます。また、他者について推論する時、一、二の特に顕著に好ましいもしくは好ましくない特徴があると、その人の他のすべての特徴を不当に高くあるいは低く評定してしまう傾向を光背効果と言います。

 与えられた情報が同じでも人によって抱く印象が異なる事がありますが、それには一つに暗黙の人格論が影響していると考えられています。私たちはひとそれぞれ、過去の経験や価値観に基づいて、「内向的な人は神経質だ」のように、ある特性はある特性と関係があったり、なかったりといった考えを持つと考えられています。こういった認知システムや信念体系を暗黙の人格論と呼ばれます。そのため、断片的な情報からだけでもある程度まとまりを持った印象が形成されたり、同じ情報が与えられても人によって違った印象が形成されたりすると考えられています。

 また、他者のパーソナリティの判断をするとき、外部に現れた一部の特徴やその人に関するカテゴリー的情報によって人を分類し、それぞれのカテゴリーに一般的であるとされる特性群や一定の固定観念をその人に当てはめて認知する傾向のことをステレオタイプ的認知と呼びます。
 ステレオタイプ的認知と類似した概念に偏見や差別があります。ステレオタイプは認知的な要素が強い一方で、偏見には感情的な要素が加わり、差別には行動が伴うといった点で違いが指摘されています。 

関連問題

●2018年-問13 ●2018年(追加試験)-問41

引用・参考文献

  • 中島義明(他・編) 1999 心理学辞典 有斐閣
  • 日本社会心理学会(編) 2009 社会心理学事典 丸善株式会社
  • 小川一夫(監修) 1995 改定新版 社会心理学用語辞典 北大路書房
  • 齊藤勇(編) 2011 図説 社会心理学入門