態度

態度

 事物、人間、集団、あるいは社会事象に対して一定の仕方で反応させる内的傾向のことを態度といいます。パーソナリティは対象を持たないのに対して、態度は対象を持つという点でパーソナリティとは異なる概念とされます。

 態度の形成には様々な要因が影響していると考えられますが、私たちにあるとされる、関連のある要素間の認知に一貫性を保とうとする傾向、つじつまをあわせようとする傾向が、その要因の一つとしてあげられます。こういった、認知の体制化や再体制化に関する理論の総称を認知的斉合性理論といいます。
 その1つがハイダー(F. Heider)のバランス理論です。バランス理論では、対象(人、物、事象)間に求められる関係を心情関係(好悪を正負で符号化)と単位関係(有無を正負で符号化)に分け、人Pの、他者Oと事象Xに対する関係と、Pに認知されたOのXに対する関係からなるPの認知構造において、3つの関係の積が正になる場合を均衡事態、負になる場合を不均衡事態として、不均衡事態にある場合は均衡事態に向かうように動機づけられるとしました。

 より包括的な理論として、フェスティンガー(L. Festinger)の認知的不協和理論が知られています。認知的不協和理論では、人の持つ様々な認知要素の間の関係が、矛盾しあう不協和関係にある時に、それを解消しようと動機づけられるという理論です。不協和を解消するためには、考えに合わせて行動を変えて協和状態にするか、行動に合わせて考えを変え協和状態にするか、それとも考えと行動が矛盾する理由を強調して協和状態にする、といった方法がとられるとされます。

 一定時間持続していた態度が何らかの原因で変化することを態度変容といい、説得的コミュニケーションと認知的斉合性理論という大きく2つの流れから研究されてきました。態度や行動を、主に言語的手段を用いて特定の方向に変容させようとする行為のことを説得と言います。

 説得的コミュニケーションによって態度が変わることもあれば変わらないこともあります。その態度変容過程を説明するために、ペティとカシオッポ(Petty,R.E.& Cacioppo,J.T.)は精緻可能性モデルを提出しました。精査可能性モデルでは、受け手がある態度対象について情報を得たとき、それらの情報を注意深く検討するかどうか、つまり精査可能性によって態度変容過程が決定されるとします。精査可能性は、受け手が説得的コミュニケーションについて考えてみようとする意欲(情報処理に関する動機づけ)があるかどうかと、そのコミュニケーションを処理できる能力(情報処理能力)があるかどうかによって規定されます。動機づけも能力も高いならばその態度対象に対する精査可能性は高まり、得られた情報内容にも基づいて態度変容が生じます。つまり情報が納得できるものであれば態度を変容させるし(中心ルートによる態度変容)、納得できなければ態度は変容しません。一方、動機づけや能力の両方、あるいはいずれかが低い場合には、態度対象に対する精査可能性は高まらず、与えられた情報はあまり処理されないままで終わります。したがって、受け手は情報内容に基づく態度変容は行いません。しかし、説得が行われた文脈で何らかの手がかり(周辺的手がかり:たとえば情報の送り手の専門性や魅力性など)があればその手がかりに基づいて態度を変容させる(周辺ルートによる態度変容)とされます。

 説得の効果は、一般的に説得直後が最大で、その後の時間経過に伴ってしだいに減少していきますが、説得後、時間経過と共に説得効果が増加する場合があり、スリーパー効果として知られています。信憑性の低い送り手からのコミュニケーションの内容は、説得直後は送り手の性質によってその効果が割り引かれてしまいますが、時間の経過とともにコミュニケーションの送り手の情報とコミュニケーションの内容の情報の関連が薄くなると、割り引かれていたものがなくなり説得効果が増すためと考えられています。

 また、「食事は1日3食とるのが体に良い」といったような、自明の理と呼ばれる疑問や反論の余地のないものとして広く受け入れられている信念は、反論や攻撃を受けると容易に説得され、態度や信念を変えてしまいやすいとされています。この理由を、マクガイア(McGuire,W.J.)は、自明の理は反論に曝される機会が無いため、“無菌状態”にあり、“免疫”がないためであると考えました。そして、自明の理であっても事前に一度反論されることによって、個人が自明の理のもろさや傷つきやすさを実感し、自分の信念を強めるよう動機づけられ、その後の説得攻撃によって容易に信念を変えることはないとする接種理論を提唱しました。

 説得は、説得的コミュニケーションないしは送り手の意図に反して、受け手が唱導方向とは逆方向へ態度を変えてしまうようなこともあります。このような、説得に対して積極的な抵抗が生じる現象をブーメラン効果と呼びます。
 この現象と関連して、ブレーム(Brehm,J.W.)は、人が自由を制限される時、自由の回復を志向した動機的状態が喚起されると仮定し、心理的リアクタンス理論を提唱しました。心理的リアクタンス理論では、態度の自由の認識→自由への脅威→心理的リアクタンス(自由回復へと方向づけられた動機づけの状態)の喚起→自由回復行動(説得への抵抗)という図式を仮定し、ブーメラン効果の心理的メカニズムを説明しています。

関連問題

●2021年-問111

引用・参考文献

  • 池田謙一(他・著) 2010 社会心理学 有斐閣
  • 中島義明(他・編) 1999 心理学辞典 有斐閣
  • 小川一夫(監修) 1995 改定新版 社会心理学用語辞典 北大路書房
  • 齊藤勇(編) 2011 図説 社会心理学入門 誠信書房