対人魅力

対人魅力

 対人魅力とは、人が他者に対して抱く魅力や好意あるいは非好意などの感情的態度をいいます(小川 1995)。この対人魅力を規定する要因について、池田ら(2012)では、刺激に繰り返し接することや物理的な距離が近いこと、類似性があること、外見の良いことや返報性があることなどがあげられています。

 この他、対人魅力をめぐっては、大きく3つの異なるアプローチから理論が展開されています。その3つとは、認知的一貫性に基づくもの、原因帰属に基づくもの、社会的交換理論などの報酬に基づくものです(藤森 1980)。

 社会的交換理論とは、社会的行動、特に対人相互作用を行動のやりとりとして考え、このやり取りを通して人々が互いに影響い合う過程を記述し分析しようとする立場に立つ、諸理論の総称です。社会的行動を交換とみなすことと、交換の過程を記述する際にオペラント条件づけに基づく強化理論の用語と基礎的な経済学の用語を適用するといった点が諸理論に共通しています(小川 1995)。中でも、公平理論と相互依存理論は中核的な理論と考えられています(奥田 1994)。

 相互依存理論とは、ゲーム理論の利得行列(the payoff matrix / outcome matrix)を援用して、対人関係における相互依存性を記述するための理論です。利得行列は、1人の人間が行で、もう1人の人間が列で表されます。各人物は2つの行動選択を持っており、4つのセルはそれぞれの行動選択の組み合わせによって発生しえる4つの事象を示しています。列を選択した人の結果は各セルの右上に、行を選択した人の結果は左下に表示されます。Kelley,H.H.らは、この利得行列を利用して相互依存性を検討し、相互運命統制や、相互行動統制といった相互制御の基本的なパターンを見いだしました。(Kelley, H. H. 1991)。

 相互運命統制とは、一方はどのような行動を選択しても利益を得、しかももう一方の成果に一方的に影響を及ぼすことができるものです。相互行動統制とは、一方が選択した行動によってもう一方が利益を得るためには特定の行動を選ばざるを得なくなるものです(小川 1995、池田 2012)。

 公平理論とは、対人関係における交換のプロセスの特徴として、公平感、不公平感に注目した理論です。不公平感は、自分の投資に対する結果の比率と、相手の投資に対する結果の比率がイコールでないと、個人が認識した時に生じるとされます。この投資やその結果に入る値は、個人の認識によります。そのような状態は、例えば以下のようにあらわされます。

 Op/Ip<Oa/Ia

 上の式で、Oは成果(Outcom)、Iは投資(input)をあらわしています。また、pは個人、aはその相手をあらわしています。つまり、上の式は、自身の投資に対する成果が、他の人と比べてわずかであると認識している状態です。
 一方で、公平な状態は以下のようにあらわされます。

 Op/Ip=Oa/Ia

 2者の間に不公平感が存在した場合、この公式の4つの項のいずれかを変更しようとしたり、そのいずれかについての認知を変更ようとしたり、あるいはその場を離れたり、比較対象を変更しようとしたりする、といった事が考えられます(Adams,J.S. 1965)

関連問題

●2022年-問13 ●2021年-問90 ●2019-問127

引用・参考文献

  • Adams,J.S. (1965). Inequity In Social Exchange. Advances in Experimental Social Psychology, 267–299.
  • 藤森立男 1980 態度の類似性、話題の重要性が対人魅力に及ぼす効果-魅力次元との関連において- 実験社会心理学研究20(1)35-43
  • 池田謙一、唐沢稔、工藤恵理子、村本由紀子 2012 社会心理学 有斐閣
  • Kelley,H.H.  1991 . Lewin, Situations, and Interdependence. Journal of Social Issues, 47(2),
  • 小川一夫(監修) 1995 社会心理学用語辞典 改定新版 北大路書房
  • 奥田秀宇 1994 恋愛関係における社会的交換過程-公平、投資、および互恵モデルの検討- 実験社会心理学研究34(1) 82-91