コミュニティ・アプローチ

コミュニティ・アプローチ

 精神障害を抱える人への対応は、時代の流れとともに変化してきました。その中で生じた大きな転換点は、精神医学革命と称されます。

 第1の革命は、Pinel,P.による鎖からの解放です。フランス革命職との1793年、Pinel,P.によって、病院改革がなされました。これによって、それまで魔女として扱われていた精神障害を抱える人々が、「病める人」とみなされ、扱いが変わってきました。
 第2の革命は、Freud,S.による無意識の発見と神経症の解明です。Freud,S.は、1893年の論文において、ヒステリーに対して心理的な治療をおこないました。これ以降、精神障害の成立条件が心理学的に決定され、心理学的に治療可能であると考えられるようになりました。
 第3の革命は、向精神薬の出現と薬物療法の発達です。1952年にレセルピンが発見され、クロルプロマジンが合成されました。これらの薬物は、統合失調症に有効であることが間もなく証明されました。これによって、薬物の向精神作用の作用機序や、対象となる疾患の作用機序の解明という基礎的側面と、精神疾患の治療という臨床的側面に進展がもたらされました。
 そして、第4の革命が地域精神保健活動の発展です。1963年に米国大統領Kennedy.J.F.が「精神障碍者と精神薄弱者に関する教書」を発表し、「地域精神保健センター法」が議会を通過しました。これによって、コミュニティに対する精神保健の「総合的」サービスが公的に認められ、進められるようになりました(上村・他 2006)。このような流れにおいて、地域精神衛生運動が展開されていきました。

 Bloom,B.(1973注1)は、地域精神衛生サービスと伝統的臨床サービスの違いについて①サービスのタイプ、②サービスの方略、③マンパワーの資源、④意思決定の場所、⑤病因論的仮定などにおいて比較しています(表1)。それによると、伝統的臨床サービスでは、①治療的サービスを強調、②心理療法を強調、③伝統的な精神医制専門家、④すべての精神衛生サービスを専門的に管理する、⑤心的原因、が特徴である一方、地域精神衛生サービスでは、①予防的サービスを強調、プライマリーケア、②短期心理療法と危機介入を含む大人数の人々に接近することを目的とする方略、③非専門家と一緒に精神衛生専門家が取り組む、④地域社会と専門家が共有した責任でおこなう、⑤環境的原因、といった違いがあります(注1 山本1986、星野 1996)。

表1 パーソナル・アプローチと、コミュニティ・アプローチの比較(星野 1996)

 コミュニティへのアプローチの方法の1つにコンサルテーションがあります(山本 1978)。コンサルテーションは、Caplan,G.(1959)によって、「an interaction process taking place between two professional workers, the consultant and the consultee. In the interaction the consultant attempts to help the consultee solve a mental health problem of his client or clients within the framework of his usual professional functioning. 」と定義されています。Caplan,G.の指導を受けた山本は、Caplan,G.の記述をまとめ、「コンサルテーションとは、二人の専門家、一方をコンサルタントと呼び、他方をコンサルティと呼ぶ、の間の相互作用の一つの過程である。そして、コンサルタントがコンサルティに対して、コンサルティのかかえているクライエントの精神衛生に関係した特定の問題をコンサルティの仕事の中でより効果的に解決できるよう援助する関係をいう」と定義しています(丹羽2017、山本 1978)。

 この援助関係を形式的に表現すると、コンサルテーションはコンサルタントがクライエントを直接援助せず、コンサルティを援助することでクライエントを間接的に援助する3社関係の援助方法とすることができます(丹羽 2017)。

関連問題

●2022年-問54 ●2018年-問123

参考・引用文献

  • Caplan,G. 1959 Concepts of mental health and consultation Washington,D.C : U.S. Children’s Bureau.
  • 星野命 1996 コミュニティ心理学の現在とメンタルヘルス こころの健康11(1) 3-14
  • 丹羽郁夫 2017 コンサルテーション コミュニティ心理学研究20(2) 143-153.pdf
  • 上村勝彦・高畠克子・箕口雅博・原裕視・久田満(編) 2006 よくわかるコミュニティ心理学 ミネルヴァ書房
  • 山本和郎 1978 コンサルテーションの理論と実際 精神衛生研究25.1-20
  • 山本和郎 1986 コミュニティ心理学-地域臨床の理論と実際- 東京大学出版会