フォーカシング指向心理療法
フォーカシングとは、ジェンドリン(Gendlin,E.T.)が開発した心理療法および自己理解のための視点と方法です。ジェンドリンは、クライエント中心療法の創始者であるロジャーズ(Rogers,C.R.)とともに心理療法の研究をおこなったことでよく知られています。
ジェンドリンは、成果のあがったカウンセリングと、そうでない場合の研究をとおして、「クライエントが言いよどむような独特の話し方をしているかどうか」が、カウンセリングの成果を左右する要因であることを見つけました。人が何かに気づくときには、それに先立って「何かまだはっきりしない意味を含んだ漠然としたからだの感じ」に注意を向けているということを見つけ、このあいまいで、とらえどころのあるようなないようなものに、「フェルトセンス」という名前を付けました。例えば、口さみしくて、食べるものを探してスナック菓子を手に取った時、なんとも言えない体の感じがしたとします。この言葉になる前の体の感じとして体験されるものがフェルトセンスです。そして、この感じは何かと思いを巡らせたときに、わくわくする感じでも喜々とした感じでもなく、おさまりの悪い感じというピッタリくる言葉が見つかったとします。すると、その時に「そうだ!これはおさまりの悪い感じだ!」といった、フェルトシフトと呼ばれるピッタリきた、腑に落ちた、すっきりした体験的変化が起こります。そこから、自分はスナック菓子が食べたいというわけではないんだなと気づき、さらに自分は食べ物を食べたいのではなく飲み物が飲みたいんだと思い当たれば、飲み物を手に入れる行動をおこして飲み物を飲み、口さみしい感じは満たされた感じとなるでしょう。このように、体験は固定された不変のものではなく、変化していく過程であることがわかります。フォーカシングではこの体験の性質をもとに、体験が何を求めており、何があれば体験が変化するのか、といった過程に注意を向けます。
フォーカシングには、手順がマニュアル化されているショートフォームがあります。それは、(1)間をとる。(2)フェルトセンスを見つける。(3)見出しをつける。(4)共鳴させる。(5)問いかける。(6)受け取るという手順を踏みます。まず、気になっている事を問いかけ確認していきます。強い気持ちや感情がある場合には、新しい気づきが出てきにくいため、横に置いたり、遠ざけたりして心理的に距離をとります。そうして、いくつか浮かんでくる気になることを並べ、余裕をもって見つめられるような心理的な空間を作ります(1)。そして、気になている事から一つ選び、フェルトセンスに注意を向けます(2)。フェルトセンスに合う言葉やイメージを探します(3)。そうして見つかったものがフェルトセンスに合うか共鳴させます(4)。フェルトシフトが生じない場合など、その体験に問いかけ、新しい気づきが生まれるのを待ちます(5)。そして、新しい気づきが得られたらそれを受け取ります(6)。これらフォーカシングの視点を用いて行う心理療法を、フォーカシング指向心理療法と呼びます。
参考文献
- 氏原寛・亀口賢治・成田善弘・東山紘久・山中康裕 2004 心理臨床大事典(改訂版) 培風館
- 村山正治(監修) 2005 マンガで学ぶフォーカシング入門 誠信書房