キャリア

キャリア

 キャリアという用語は、立場や主張によって様々に定義されており、定まった定義はありません。現在一般的に使用されているキャリアは、①昇格・昇進という意味でのキャリア、②専門職という意味でのキャリア、③生涯にわたる仕事に連鎖という意味でのキャリア、④役割経験の生涯にわたる連鎖といった意味で使用されているとされます。

 キャリアの諸決定のよりどころになるものとして、個人が選択を迫られたときに、その人が最も放棄したがらない欲求、価値観、能力など、その個人の中心を示すものをキャリア・アンカーと呼びます。キャリア・アンカーの考え方を最初に打ち出したのはシャイン(Schein,E.H)であり、彼によって以下の8つのアンカーが確認されています。

  • 保障・安全-経済的に安定していると感じられること
  • 自立・独立-職業生活を自分のコントロール下に置けること
  • 専門・職種別コンピタンスー特定の才能やスキルをより高い水準で行使すること
  • 全般管理コンピタンスー自分が管理する組織のパフォーマンスを高めること
  • 起業家的創造性-自分でビジネスや商品、サービスなどを作って自分の努力で成功すること
  • 奉仕・社会貢献-自分の価値観(世界をよりよいものにする、など)を満たすこと
  • 純粋な挑戦-不可能な問題を乗り越えること
  • 生活様式-家族の状況や個人の成長欲求といった側面と、職業生活とを統合すること

 スーパー(Super,D.E.)は、職業に限らないキャリアをライフ・キャリアと呼び、キャリアは単に青年期に選択され決定されるのではなく、生涯にわたって発達し変化し続けるものであると考えました。そして、自身の理論を検討していく中で、「キャリアの虹」といわれる考え方を提示し、「人は、生涯において9つの大きな役割(子ども、学生、余暇人、市民、労働者、配偶者、家庭人、親、年金生活者)を演ずる。この役割を演ずる舞台は家庭、地域、学校、職場で1つのこともあるし、複数の事もある。いずれにしても、この役割を演ずる中で個人は他人から見られる自分の役割を再構築していく」という概念を提案しました。各役割の割合は、時間の経過に伴う環境の変化などの影響を受けて増減していきますが、私たちは常に何らかの役割をもっているのです。

 このように、個人の中で複数の役割を取る際には両立が難しくなることもあり、就業者個人の仕事と家族役割間で経験する葛藤は、ワーク・ファミリー・コンフリクトと呼ばれます。グリーンハウスとビューテル(Greenhaus,J.H & Butell,N.J)は、ワーク・ファミリー・コンフリクトを、①その時間にそこにいる必要があるという時間を巡る時間に基づく葛藤、②一方の領域に生じたストレスの結果、もう一つの領域での達成が阻害されるストレス反応に基づく葛藤、③一方の役割行動が他方の役割行動を阻害していると考えられる行動に基づく葛藤に分類し、各々の影響について検討しています。こういった仕事と生活の両立の難しさを受け、日本では、仕事と生活の両立を目指すため、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章が策定されています。

 キャリア・カウンセリングは個人のキャリア形成を支援するカウンセリングであり、個人が求めるキャリアとキャリアの問題を吟味しつつ、複数の領域の複数のキャリアを統合できるように、現実的な行動をおこせるように支援していきます。個人が1つの職業を選び、それに向かう準備をし、その生活に入り、かつその生活において進歩するように、個人を援助する過程がキャリア・ガイダンスです。これに対して、スーパーは、個人と職業のマッチングの過程としてではなく、個人が職業の選択を通して社会にも利益があるように自己実現を援助する過程として、職業指導を再定義しました。このような流れを受けて、職業、キャリア、生涯にわたるキャリア、キャリアの意思決定、キャリア計画その他のキャリア開発に関する諸問題や葛藤について、資格を持つ専門家が援助する諸活動として、キャリア・カウンセリングという用語が使われるようになります。

参考文献

  • Greenhaus, J. H., & Beutell, N. J. 1985, “Sources and conflict between work and family roles,” Academy of Management Review, 10,pp. 76-88. Kahn, R. L.,
  • Schein,E. 1992 Career anchors and job/role planning: The links between career planning and career development. In D.H. Montross & C.J. Shinkman (Eds.), Career development:Theory and practice (pp. 207-218). Springfield, IL: Charles C Thomas.
  • Super,D.E. 1980 A life-span, life-space approach to career development. Journal of Vocational Behavior 16, pp282-298
  • 木村周 平成22年 キャリアコンサルティング 理論と実際 4訂版 一般社団法人雇用問題研究会
  • 田中堅一郎(編) 2011 産業・組織心理学エッセンシャルズ 改訂三版 ナカニシヤ出版
  • 内閣府 仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章 
  • 山口裕幸・金井篤子(編) 2007 よくわかる産業・組織心理学 ミネルヴァ書房

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