不登校
不登校という用語が使われるようになったきっかけは、学校教育が開始されてからの怠学研究の中で、従来の怠学児とはちがった神経症的症状を持つ者がいるとの指摘にあるとされています。その後、1940年代に、学校恐怖症、学校ぎらい、登校拒否と様々な名称が検討されていき、疾病や症候群としてではなく、症状としてとらえる立場から、不登校という名称が提案され現在に至ります(保坂 2002)。
現在、文部科学省のおこなう<児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査>では、年度間に連続又は断続して30日以上欠席した児童生徒数のうち、「何らかの心理的、情緒的、身体的、あるいは社会的要因・背景により、児童生徒が登校しないあるいはしたくともできない状況にある者(ただし,「病気」や「経済的理由」による者を除く。)」を不登校として計上しています。
小中学校における不登校は、平成3年に30日以上の欠席者を対象として計上するようになってから年々増加し、平成13年の138,722人をピークにその後13万人から11万人を推移していましたが、平成29年に14万人を超えてからは増加傾向にあります。
不登校の要因には様々なものが考えられますが、そのような中で、本人の「無気力・不安」によるものが多くを占めています。また、「いじめを除く友人関係」、「親子の関わり方」、「学業の不振」も不登校の大きな要因となっています。
学生の無気力状態と関連する概念として、スチューデント・アパシーがあります。アパシーとは、無気力・無感動・無関心を総称して使われる用語です(内山 1990)。アパシー(Apthie,apathy)はギリシャ語の「pathos(Passion)の欠如」を語源とする言葉で、精神医学用語としては無感情や感情鈍麻を意味していましたが、これに対してWalters(1961)が、男らしさの形成という発達課題に関して独特のアパシー状態を示す男子大学生がみられることを指摘し、スチューデント・アパシーとしたところにその端緒があるとされます(下山 1997)。下山(1997)によれば、スチューデント・アパシーは、悩まない行動障害、悩めない心理障害、自律適応強迫性格という3次元構造によって理解されます。
不登校の要因が多岐にわたる様子にも見られるように、不登校は学校に登校していないという状態を示す用語にすぎません。そのため、適切な評価にあたっては、背景疾患の診断、発達障害の診断、不登校出現過程による会分類の評価、不登校の経過に関する評価、環境の評価といった多軸評定の重要性が指摘されています(齊藤 2007)。
不登校児への支援としては、政府が<不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)>としてその方針を明示しています。それによると、不登校児童生徒への支援は、「学校に登校する」という結果のみを目標にするのではなく、不登校が一方では休養や自分を見つめなおすことになりえ、一方では学業の遅れや社会的自立へのリスクになりえるといった事に留意しておこなわれます。
また、児童生徒の才能や能力に応じて、それぞれの可能性を伸ばせるように、本人の希望を尊重した上で、場合によっては教育支援センターや不登校特例校での受け入れや、フリースクールなどの民間施設やNPOなどと連携をおこなっていきます。
支援の在り方として、学校等の取り組みの充実についても触れられています。そこでは、不登校児童生徒への効果的な支援のために、学校関係者が中心となって児童生徒や保護者と話し合いなどをおこない「児童生徒理解・支援シート」を作成し、活用していく事が望ましいとされています。
そのほかにも、学校での取り組みとして、不登校が生じないような学校づくりや、不登校児童生徒に対する効果的な支援の充実、不登校児童生徒に対する多様な教育機会の確保、中学校等卒業後の支援などが挙げられています。効果的な支援の充実にあたっては、校長のリーダーシップの下、教員だけでなく、様々な専門スタッフと連携協力し、組織的な支援体制を整えることが必要であるとしています。
関連問題
●2022年-問56 ●2020年-問134 ●2018年(追加試験)-問21
参考文献
- 保坂亨 2002 展望 不登校をめぐる歴史・現状・課題 教育心理学研究41 pp.157-169
- 文部科学省初等中等教育局長 2018 不登校児童生徒への支援の在り方について
- 文部科学省初等中等教育局児童生徒課 2019 令和元年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について
- 齊藤万比古(編) 2007 不登校対応ガイドブック 中山書店
- 下山晴彦 1997 臨床心理学研究の理論と実際―スチューデント・アパシー研究を例として 東京大学出版会
- 内山喜久雄(他・監修) 1990 スチューデント・アパシー 同盟舎