児童虐待

児童虐待 

 児童虐待とは、児童虐待の防止等に関する法(児童虐待防止法)によると、保護者がその監護する児童に対しておこなう以下の行為をいいます。

①児童の身体に外傷を生じ、又は生じる恐れのある暴行を加えること
②児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をすること
③児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること
④児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。

 これらの虐待は、①身体的虐待、②性的虐待、③ネグレクト、④心理的虐待として知られています。諸外国ではマルトリートメントという概念が、日本の児童虐待に相当する概念として一般化しています。

 児童虐待は、近年大きな社会問題となっています。児童虐待防止法が2000年5月に国会を通過し、同年11月に施行されましたが、その後も虐待の件数は減少することなく増加の一歩をたどっています。主な虐待者は、実父以外の父親が最も多く、実母、実父と続きます(<令和元年度 福祉行政報告例 児童福祉>)。

 虐待が子どもに及ぼす影響は深刻です。虐待は、子どもの行動や情緒の問題に影響を及ぼすことが知られていますが(坪井 2005)、その影響は行動面にとどまらず、脳の器質的・機能的変化も生じさせることが明らかになっています(友田 2016)。また、その影響は一時的なものではなく、その後の犯罪の被害体験や加害体験、自殺企図歴、心的不調の治療歴、婚・交際歴、配偶者等間の暴力、子どもの有無、子どもへの暴力と、きわめて多岐にわたって長期的な影響を及ぼすとされています(藤野 2008)。こういった深刻な影響をおよぼす虐待は、被虐待経験のある親が自身の子どもを虐待することで虐待が次の世代へと引き継がれていくといった世代間連鎖が生じることも知られています(久保田 2010)。

 虐待に関しては、その影響の他に、リスク要因についても明らかになってきています。例えば、<子ども虐待対応の手引き(平成25年8月 改正版)>では、虐待に至る恐れのある要因を、1.保護者側のリスク要因、2.子ども側のリスク要因、3.養育環境のリスク要因にわけてまとめています。保護者のリスク要因としては、望まぬ妊娠や10代の妊娠であり、妊娠そのものを受容することが困難な場合や、保護者が妊娠、出産を通してマタニティブルーズや産後うつ病等精神的に不安定な状況に陥ったり、元来性格が攻撃的・衝動的、被害的であったり、精神疾患を患っているが医療につながっていない場合、保護者自身が虐待を受けたことがある場合などが挙げられます。子ども側のリスク要因は、乳児期の子ども、未熟児、障害児、何らかの育てにくさを持っている等です。また、養育環境のリスク要因としては、未婚を含む単身家庭、内縁者や同居人がいる家庭、子ども連れの再婚家庭、夫婦を始め人間関係に問題を抱える家庭、転居を繰り返す家庭、親族や地域社会から孤立した家庭、生計者の失業や転職の繰り返し等で経済不安のある家庭、夫婦の不和、配偶者からの暴力等不安定な状況にある家庭などが挙げられます。

 実際にはこういった様々な要因が複雑に絡み合い虐待と結びついていると考えられますが、中でも保護者の要因はより重要な要因であることが示唆されています(浦山・西村 2009、大原 2003、佐藤・遠藤・佐藤 2013、中谷・中谷 2006、望月(他) 2014)。これは、決して保護者が虐待の原因であるということを意味するものではありませんが、支援は保護者の在り方にあわせて進めていく必要性を示唆するものであると考えられます。

 虐待は時に死に至ることもあります。虐待による死亡事例が後を絶たない状況を受け、国は児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会を設置し、平成15年分より継続的・定期的に全国の児童虐待による死亡事例等を分析・検証し、その結果を<子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について>として公表しています。<子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第16次報告)>よると、心中以外による虐待死事件でも、心中による虐待死事件でも、主たる加害者は実母、死亡した子どもの年齢は0歳が多くを占めています。また、心中以外による虐待死事件では、死因となった虐待の種別は、第1次~第15次報告ではネグレクトよりも身体的虐待の人数・割合が多かったものの、 第16次報告ではネグレクトが身体的虐待の人数・割合を上回る結果となっています。心中による虐待死事例では、保護者自身の精神疾患、精神不安が動機として多くなっています。

 こういった虐待の性質上、子どもの生命の安全の確保をはかるため、必要に応じ一時保護がおこなわれます。特に、当事者が保護を求めており、かつ当事者が訴える状況が差し迫っている場合や、当事者が保護を求めていなくても、すでに重大な結果がある場合には、緊急一時保護が検討されます。

 虐待を行っている保護者等から子どもを強制的に分離するためにとりうる法的手続としては、児童相談所長による一時保護の他にも、家庭裁判所による子どもの里親委託又は児童福祉施設等への入所の承認、家庭裁判所による親権喪失宣告、家庭裁判所による保全処分等があります。

関連問題

●2018年-問2問12 ●2018年(追加試験)-問79問109 ●2019年-問20問102 

参考文献

  • 浦山昌美・西村真実子 2009 母親の内的ワーキングモデルと虐待的な養育態度の関連性 日本公衆衛生誌56(4)pp.223-231
  • 大原美和子 2003 母親の虐待行動とリスクファクターの検討-首都圏在住で幼児を持つ母親への児童虐待調査から- 社会福祉学43(2)pp.46-57
  • 久保田まり 2010 児童虐待における世代間連鎖の問題と援助的介入の方略:発達臨床心理学的視点から 季刊・社会保障研究45pp.373-384
  • 佐藤幸子・遠藤恵子・佐藤志保 2013 母親の虐待傾向に与える母親の特性不安、うつ傾向、子どもへの愛着の影響 日本看護研究学会雑誌36(2)pp.13-21
  • 周燕飛 2019 母親による児童虐待の発生要因に関する実証分析 医療と社会29pp.119-134
  • 坪井裕子 2005 Child Behavior Checklist/4-18(CBCL)による被虐待児の行動と情緒の特徴 -児童養護施設における調査の検討- 教育心理学研究53pp.110-121
  • 友田明美 2016 被虐待者の脳科学研究 児童青年精神医学とその近接領域57(5)pp.719-729
  • 中谷奈美子・中谷泰之 2006 母親の被害的認知が虐待的行為に及ぼす影響 発達心理学研究17(2)pp.148-158
  • 藤野京子 2008 児童虐待が後年の生活に及ぼす影響について 犯罪心理学研究46(1)pp.31-43
  • 望月由妃子(他) 2014 養育者の育児不安および育児環境と虐待との関連 保育園における研究 日本公衆衛生誌61(6)pp.
  • 令和元年度 福祉行政報告例 児童福祉
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