自殺

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自殺の現状と対策 

 日本の自殺者は、平成10年に3万人を超え、その後しばらく高止まりしていました。そのような状況を背景に、平成12年の3月に健康日本21の中で自殺予防に取り組んだことを皮切りに、平成18年6月には自殺対策基本法が成立し、様々な自殺対策がなされていきました。

 自殺対策基本法をもとに作成される<自殺総合対策大綱>では、自殺行動に至った人は、その直前に様々な悩みによって心理的に追い詰められていることが明らかになっており、自由意思によるものというよりも、その多くが追い込まれた末の死であるということができるという認識を示しています。そして、自殺は社会の努力で防ぐことができるという考えのもと、社会における「生きることの阻害要因」を減らし、「生きることの促進要因」を増やすことを通じて、社会全体の自殺リスクを低下させるという理念が示されています。

 定期的に見直しがおこなわれている<自殺総合対策大綱>ですが、平成24年には、重点施策の一つとしてゲートキーパーの養成が掲げられていました。ゲートキーパーとは、自殺の危険性が高い人の早期発見、早期対応を図るため、自殺の危険を示すサインに気づき適切な対応を図るといった役割を担う人で、悩んでいる人に気づき、声をかけ、話を聞いて、必要な支援につなげ、見守る人のことです。地域のかかりつけの医師、保健師等をはじめとする精神保健福祉従事者、行政等の相談窓口職員、関係機関職員、民生 委員・児童委員や保健推進委員、ボランティアなど、さまざまな人たちがゲートキーパーとして想定されています。ゲートキーパーは、「気づき:家族や仲間の変化に気づいて、声をかける」、「傾聴:本人の気持ちを尊重し、耳を傾ける」、「つなぎ:早めに専門家に相談するように促す」、「見守り:温かく寄り添いながら、じっくりと見守る」といったことを活動としておこなっていきます。(<ゲートキーパー養成研修用テキスト 第3版 平成25年8月作成>)。

 また、平成28年におこなわれた自殺総合対策大綱の見直しでは、子どもや若者を対象にした対策が強化されています。学校における自殺予防教育は、「早期の問題認識(心の健康)」と「援助希求的態度の育成」を目標におこなわれ、価値の押し付けを避け、グループワークを重視するプログラムを通じて進められていきます。ただし、これらが意味を持つためには、子どもが自分自身を他者から援助を得る価値のある存在だと認識し、周囲の人々へ一定の信頼感を持っていることが前提となります。そういった前提なしに、周囲にサポートを求めることの重要性などを伝えても、子どもの孤立が深まったり、話の聞き方のロールプレイなどが傷つき体験となる危険もあります。そのため、自殺予防教育を実施する際には、子どもや学級集団の状態を把握してそれに基づく配慮をおこなうなど、必要な準備をおこなう必要があります。なおハイリスクの子どもに対しては、SCを最大限活用してフォローする体制が重視されています(<子どもに伝えたい自殺予防-学校における自殺予防教育導入の手引->)。

 こういった政策もあって、自殺者数は平成24年には3万人を割り、令和1年までは年々減少していました。しかしいまだ2万人近い人が自殺で亡くなっています(<令和2年度中における自殺の状況>)

自殺の原因

 自殺の原因は、健康問題、経済・生活、人間関係の問題のほか、地域職場の在り方の変化など様々な要因とその人の性格傾向、家族状況、死生観などが複雑に関係しています。警察庁の自殺統計<令和2年度中における自殺の状況>によると、自殺の原因や動機について「健康問題」が多くを占めており、次いで「家庭の問題」や「経済の問題」が多くなっています。また、親しい人や仕事を失ったり、自殺手段を手に入れられやすい環境にあること、自殺に関する情報にさらされることなども危険因子とされます(<自殺に傾いた人を支える人を支えるために>、<自殺対策を推進するためにメディア関係者に知ってもらいたい基礎知識 2017年 最新版>)。
 このように、自殺のリスク要因としては様々な要因が考えられていますが、以下に挙げる要因の頭文字をとってSAD PERSONS(悲しい人々)としてわかりやすくまとめられたりもしています(Patterson WM, Dohn HH, Bird J, et al 1983)。

Sex:男性
Age:20歳未満と45歳以上
Depression:うつ状態
Previous attempt:自殺企図の既往
Ethanol abuse:アルコール・薬物の乱用
Rational thinking loss:幻覚・脳気質症候群、精神病状態
Social supports lacking:社会的援助の欠如
Organized plan:組織的な計画性
No spouse:配偶者がいない
Sickness:身体疾患

自殺の予防

 自殺の予防は3段階に分類され、現時点で危険が迫っているわけではないけれどその原因を取り除いたり、教育をしたりすることによって、自殺が起きるのを予防するプリベンション(prevention:事前対応)、今まさに起きつつある自殺の危険に介入し、自殺を防ぐインターベンション(intervention:危機介入)に、ポストベンション(postvention:事後対応)が続きます。ポストベンションとは、元々は自殺で残された遺族に対するケアを指す用語でしたが、これが転じて、遺された人々に及ぼす心理的影響を可能な限り少なくするための対策を意味して使われたりしています。

 プリベンションについては、学校で自殺予防教育がすすめらています。学校における自殺予防教育の目標は、「早期の問題認識(心の健康)」と「援助希求的態度の育成」です。プログラムは、グループワークを重視し、価値の押し付けを避けるようにすすめられます。「いのちは大切」といった価値観が一方的に示されると、身近な人を自殺で亡くした人や自傷行為をしてしまう子供たちは、「いのちを大切にできない親(自分)は駄目な存在」と自らを責め、より一層自尊感情を低めてしまう恐れがあるためです。また、プログラムの実施にあたっては、ハイリスクといわれる、身近な人を自殺で亡くしている子どもや自殺未遂の経験や自傷などがある子どもについてはあらかじめ子ども本人や保護者と話し合って授業への参加の仕方を検討するといった配慮が求められます(<子供に伝えたい自殺予防 学校における自殺予防教育導入の手引>)。

 インターベンションでは、まず傾聴に努め、状況を把握することからはじめます。関りの際に最も重要な事は、相手が今、どのような思いでその話題を語っているのかという、相手の「気持ち」の部分に焦点をあわせることであり、辛い気持ちや死にたい気持ちをまずはしっかりと受け止めることが大切であるとされます。
 そうしてコミュニケーションをとりつつ、自殺の危険性を確認、評価していきます。相談者とのコミュニケーションが十分とられ、相談者からの信頼がある程度得られた段階であれば、死にたい気持ちを尋ねることが自殺を促すことはないと考えられています。確認するポイントは、自殺の計画の具体性や希死念慮の持続性などです。時期を設定していたり、手段を確保しているように計画が具体的であったり、死にたい気持ちが持続して消えないような状況は、危険性が高いと判断されます。
 加えて、上述のような自殺の危険因子に注意しつつ自殺の生じる危険性のアセスメントをおこない、自殺をしてしまうこと以外の解決法があることを伝えつつ、その方法を話し合ったりしていきます。そして、社会資源の利用を含め、継続的に支援を進めていきます。また、評価の際に自殺の危険性が高いと判断される場合には、医療機関での対応、身近な人や警察官への要請などを通じて安全を確保します。(<自殺に傾いた人を支えるために>)。

 自傷などによって身体的なケアが必要となった場合には、医療機関へ搬送されます。病院に搬送された患者のうち、自殺の可能性が考えられる場合には、犯罪被害、薬物酩酊、身体疾患等を否定するために、自殺企図であったか否かの確認が必要となります。
 その際、①自らの意志で行った行為であるか、②明確な自殺の意図があったか、 ③致死的な手段を用いたか、④致死性の予測があったか、⑤その行為とは別に自殺念慮が存在するか、⑥遺書等から客観的に確認されるか、などが判断の材料となります<精神科救急医療ガイドライン(3)(自殺未遂者対応)>。

 自殺がなされてしまった場合には、遺された人への対応が必要となります。親族をはじめ、友人や同僚といった自死遺族等への支援の目的は、総合的な視点に立ち、自殺に対する偏見をなくし、心理面・生活面等において、必要な支援を行うことです。(<自死遺族等を支えるために-総合的支援の手引き>)

 職場で自殺が起きてしまった場合、できるだけ早い段階でケアをすることが望ましいとされています。そのために、まず、関係者の反応が把握できるくらいの人数で集まる機会を設けます。そこで、自殺について事実を中立的な立場で伝えて、率直な感情を表現する機会を作り、知人の自殺を経験した時に起こり得る反応や症状を説明します。自殺はそれが生じたことを隠しておこうとしても難しいことが多いため、ポストベンションでは動揺を最小限にするような方法で事実を中立的に伝え、それに動揺している人がいるならば、個別・具体的に働きかけていくことがすすめられています。また、ポストベンションの重要な目的は、関係者の複雑な感情をありのままに表現する機会を与えることです。ただし、中には自分の感情を言葉に表せない人もいるので、全員が必ず話さなければならないといった強制的な雰囲気を作るのではなく、率直な気持ちを話すことも自由だし、他の人々の話を黙って聞いている自由もあることを保証しておきます(<職場における自殺の予防と対応>)。

 子どもが自殺した場合、学校は情報を収集しつつ、遺族や保護者、生徒、また地域社会に対する対応を検討していくことになります。配慮の必要なケースへの当面の対応を優先しつつ、保護者や子どもからの相談にも対応が必要です。さらに、教職員へのサポートも重要です。メンタルヘルスについての心理教育や、急性ストレス障害とその対応について伝えたり、自身の体験を言語化して他者と共有する機会とするため必要に応じてグループワークへの参加を促したりといったこともおこなわれます。(<子どもの自殺が起きた時の緊急対応の手引き>)

関連問題

●2018年-問34 ●2018年(追加試験)-問139問144 ●2019年-問34問95問106 ●2020年-問1問3問4問71 ●2021年-問2問74

参考文献

ゲートキーパー養成研修用テキスト

  • 山本泰輔 2006 ポストベンション(遺族のケア) 精神療法32(5) 586-591
  • 河西千秋 2010 自殺の三次予防 臨床精神医学39(11)1417-1422
  • Patterson WM, Dohn HH, Bird J, et al 1983 Evaluation of suicidal patients: The SAD PERSONS scale. Psychosomatics24(4): 343-349
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