自殺

自殺 

 日本の自殺者は、平成10年に3万人を超え、その後しばらく高止まりしていました。そのような状況を背景に、平成12年の3月に健康日本21の中で自殺予防に取り組んだことを皮切りに、平成18年6月には自殺対策基本法が成立しました。その後、自殺者数は平成24年には3万人を割り、令和1年までは年々減少していました。しかしいまだ2万人近い人が自殺で亡くなっています(<令和2年度中における自殺の状況>)

 自殺の原因は、健康問題、経済・生活、人間関係の問題のほか、地域職場の在り方の変化など様々な要因とその人の性格傾向、家族状況、死生観などが複雑に関係しています。警察庁の自殺統計<令和2年度中における自殺の状況>によると、自殺の原因や動機について「健康問題」が多くを占めており、次いで「家庭の問題」や「経済の問題」が多くなっています。また、親しい人や仕事を失ったり、自殺手段を手に入れられやすい環境にあること、自殺に関する情報にさらされることなども危険因子とされます(<自殺に傾いた人を支える人を支えるために>、<自殺対策を推進するためにメディア関係者に知ってもらいたい基礎知識 2017年 最新版>)。このように、自殺のリスク要因としては様々な要因が考えられていますが、以下に挙げる要因の頭文字をとってSAD PERSONS(悲しい人々)としてわかりやすくまとめられたりもしています(Patterson WM, Dohn HH, Bird J, et al 1983)。

  • Sex:男性
  • Age:20歳未満と45歳以上
  • Depression:うつ状態
  • Previous attempt:自殺企図の既往
  • Ethanol abuse:アルコール・薬物の乱用
  • Rational thinking loss:幻覚・脳気質症候群、精神病状態
  • Social supports lacking:社会的援助の欠如
  • Organized plan:組織的な計画性
  • No spouse:配偶者がいない
  • Sickness:身体疾患

 自殺への対策に関して、「自殺対策基本法」をもとに作成された<自殺総合対策大綱>では、自殺行動に至った人は、その直前に様々な悩みによって心理的に追い詰められていることが明らかになっており、自由意思によるものというよりも、その多くが追い込まれた末の死であるということができるという認識を示しています。そして、自殺は社会の努力で防ぐことができるという考えのもと、社会における「生きることの阻害要因」を減らし、「生きることの促進要因」を増やすことを通じて、社会全体の自殺リスクを低下させるという理念が示されています。

 実際に自殺に傾いた人への対応では、まず傾聴に努め、状況を把握することからはじめます。その中で上記のような自殺の危険因子に注意しつつ自殺の生じる危険性のアセスメントをおこない、自殺の危険性が高い場合には、医療機関での対応、身近な人や警察官への要請などを通じて安全を確保します。また、自殺に傾く人は、多くの場合、生活 ・経済問題や、職場や学校での問題、介護問題など、具体的な問題で生きづらさを抱えているため、社会資源の活用によって当座の生活の安心を確保するといった具体的な支援が、自殺を予防するのに効果的であることに留意しながら関わっていきます。関りの際に最も重要な事は、相手が今、 どのような思いでその話題を語っているのかという、相手の「気持ち」の部分に焦点をあわせることとされます。相談者とのコミュニケーションが十分とられ、その置かれた状況が把握できるようなり、相談者からの信頼がある程度得られた段階であれば、死にたい気持ちを尋ねることが自殺を促すことはないと考えられています。そして、自殺をしてしまうこと以外の解決法があることを伝え、その方法を話し合ったりしていきます。(<自殺に傾いた人を支えるために>)。自殺について取り上げる会話における原則は、<精神科救急医療ガイドライン(3)(自殺未遂者対応)>において、「TALKの原則」としてまとめられています。

  • 誠実な態度で話しかける(Tell)
  • 自殺についてはっきりと尋ねる(Ask)
  • 相手の訴えを傾聴する(Listen)
  • 安全を確保する(Keep safe)

 定期的に見直しがおこなわれている<自殺総合対策>ですが、H28年におこなわれた見直しで、子どもや若者を対象にした対策が強化されています。学校における自殺予防教育は、「早期の問題認識(心の健康)」と「援助希求的態度の育成」を目標におこなわれ、価値の押し付けを避け、グループワークを重視するプログラムを通じて進められていきます。ただし、これらが意味を持つためには子どもが自分自身を他者から援助を得る価値のある存在だと認識し、周囲の人々へ一定の信頼感を持っていることが前提となります。そういった前提なしに、周囲にサポートを求めることの重要性などを伝えても、子どもの孤立が深まったり、話の聞き方のロールプレイなどが傷つき体験となる危険もあります。そのため、自殺予防教育を実施する際には、子どもや学級集団の状態を把握してそれに基づく配慮をおこなうなど、必要な準備をおこなう必要があります。なおハイリスクの子どもに対しては、SCを最大限活用してフォローする体制が重視されています(<子どもに伝えたい自殺予防-学校における自殺予防教育導入の手引->)。

 平成24年の<自殺総合対策大綱>では、重点施策の一つとしてゲートキーパーの養成が掲げられていました。ゲートキーパーとは、悩んでいる人に気づき、声をかけ、話を聞いて、必要な支援につなげ、見守る人のことです。ゲートキーパー養成研修では、メンタルヘルス・ファーストエイドに触れ、リスク判断、判断や批判をせずに話を聞く、安心と情報を与える、サポートを得るように勧める、セルフヘルプといった5つのステップを「り、は、あ、さ、る」としてまとめています。

 また、支援者は援助を拒否されるようなことがあっても、自殺を考えている人の背景には、絶望感や孤立感といった心理状態がある可能性を踏まえて対応することや、悩んでいる人はさまざまな問題を抱えている場合もあり、一人の支援者ではすべてを解決できないこともあるため、関係する支援者同士が協力して支援をしていくことなどの重要性についても触れられます(<ゲートキーパー養成研修用テキスト 第3版 平成25年8月作成>)。

 自殺予防は3段階に分類され、ここまでみてきたような、現時点で危険が迫っているわけではないけれどその原因を取り除いたり、教育をしたりすることによって、自殺が起きるのを予防するプリベンション(prevention:事前対応)、今まさに起きつつある自殺の危険に介入し、自殺を防ぐインターベンション(intervention:危機介入)に、ポストベンション(postvention:事後対応)が続きます。ポストベンションとは、元々は自殺で残された遺族に対するケアを指す用語でしたがこれが転じて、遺された人々に及ぼす心理的影響を可能な限り少なくするための対策を意味して使われたりします。

 自殺はそれが生じたことを隠しておこうとしても難しいことが多いため、ポストベンションでは動揺を最小限にするような方法で事実を中立的に伝え、それに動揺している人がいるならば、個別・具体的に働きかけていくことが勧められています。ポストベンションの重要な目的は、関係者の複雑な感情をありのままに表現する機会を与えることです。ただし、中には自分の感情を言葉に表せない人もいるので、全員が必ず話さなければならないといった強制的な雰囲気を作ってはなりません。率直な気持ちを話すことも自由だし、他の人々の話を黙って聞いている自由もあることを保証しておきます(<職場における自殺の予防と対応>)。

 子どもが自殺した場合の学校の対応は、まず遺族の気持ちに寄り添う事、学校の日常生活の回復、自殺の連鎖防止などを目標としておこなわれます。プライバシーへの配慮が必要であることや、子どもの自殺は連鎖(後追い)の可能性があることに配慮しつつ、出せる情報は積極的に出していくという姿勢に立って進めていきます。特に、自殺の事実を公表するにあたっては、あらかじめ遺族から了解をとるよう努めます(<子どもの自殺が起きた時の緊急対応の手引き>。

関連問題

●2018年-問34 ●2018年(追加試験)-問139 ●2019年-問34問95問106 ●2020年-問1問3問4

参考文献

ゲートキーパー養成研修用テキスト

  • 山本泰輔 2006 ポストベンション(遺族のケア) 精神療法32(5) 586-591
  • 河西千秋 2010 自殺の三次予防 臨床精神医学39(11)1417-1422
  • Patterson WM, Dohn HH, Bird J, et al 1983 Evaluation of suicidal patients: The SAD PERSONS scale. Psychosomatics24(4): 343-349
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