緩和ケア

緩和ケア

 WHO(世界保健機関)による2002年の緩和ケアの定義では、「緩和ケアとは、生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者とその家族のQOLを、痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に見出し的確に評価を行い対応することで、苦痛を予防し和らげることを通して向上させるアプローチである。」とされます。そして、

緩和ケアは

  • 痛みやその他のつらい症状を和らげる
  • 生命を肯定し、死にゆくことを自然な過程と捉える
  • 死を早めようとしたり遅らせようとしたりするものではない
  • 心理的およびスピリチュアルなケアを含む
  • 患者が最期までできる限り能動的に生きられるように支援する体制を提供する
  • 患者の病の間も死別後も、家族が対処していけるように支援する体制を提供する
  • 患者と家族のニーズに応えるためにチームアプローチを活用し、必要に応じて死別後のカウンセリングも行う
  • QOLを高める。さらに、病の経過にも良い影響を及ぼす可能性がある
  • 病の早い時期から化学療法や放射線療法などの生存期間の延長を意図して行われる治療と組み合わせて適応でき、つらい合併症をよりよく理解し対処するための精査も含む

とされています(大坂ら 2019)。

 日本では、1990年に「緩和ケア病棟入院料」が診療報酬に導入され、2002年から「緩和ケアチーム診療加算」が認可されるようになっています(安達 2016)。緩和ケア診療加算の施設基準では緩和ケアチームの設置が必要とされ、2006年(平成18年)では、身体症状の緩和を担当する常勤医師、精神症状の緩和を担当する常勤医師、 緩和ケアの経験を有する常勤看護師の3名が構成要件でしたが、2008年(平成20年)には、緩和ケアの経験を有する薬剤師を加えた4名が構成要件となりました。また、2018年(平成30年)からは、4人のうち一人が原則専従である必要があります(基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取り扱いについて(平成18年、20年、28年、30年))。

 とくにがんの治療では、「がん対策基本法」と、「がん対策推進基本計画」などによって、診断時からの緩和ケアの導入が積極的に導入されています(長田他 2018)。2004(平成16年)からは、全国どこでも質の高いがん医療を受けることができるように、がん医療の均てん化が掲げられた「第3次がん10か年総合戦略」が開始され、がん診療連携拠点病院の整備が進められてきました(がん診療連携拠点病院の整備について(平成18年2月1日))。がん診療連携拠点病院の整備について見直されていく中で、地域がん診療連携拠点病院では、緩和ケアチームを整備し、週1回以上の頻度で定期的に病棟ラウンドとカンファレンスをおこなったり、外来で緩和ケアを提供したりするようになっています(がん診療連携拠点病院等の整備について(平成26年1月10日))。

 2007年には、厚生労働省が「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」を発表しました。ガイドラインには、人生の最終段階における医療・ケアの在り方や、人生の最終段階における医療・ケアの方針の決定手続が示されています。 ガイドラインに従うと、患者の意思が確認できる場合には、医療従事者から適切な情報提供と説明を受けた本人による意思決定を基本とし、多専門職種から構成される医療・ ケアチームとして方針の決定を行います。一方で、患者の意思の確認ができない場合には、家族等が本人の意思を推定できる場合には、その推定意思を尊重し、本人にとっての最善の方針をとることが基本となります。

 この推定意思をより確かなものとする方法として、事前指示書(リビングウィル)があります。これは、意思表示ができなくなった場合に備えて、患者自身が治療方針に対する希望を具体的に書き示しておくものです(長田他 2018)。

 また、患者が将来の治療・ケアの方向性や具体的内容について、医療従事者や家族と相談して方針を決める、アドバンス・ケア・プランニングなどの対話的方法が注目されています(長田他 2018)。

関連問題

●2022年-問40 2019年-問51 2018年-問54

参考・引用文献

  • 安達勇 2006 がん緩和医療学の歴史的背景と現状 skin cancer21(3) 252-260
  • 厚生労働省 2018 人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン 改訂 平成30年3月
  • 長田久雄 他(著) 2018 新看護学4 専門基礎4 医学書院
  • 大坂巌・渡邊清高・志真泰夫・倉持雅代・谷田憲俊 2019 わが国におけるWHO緩和ケア定義の定訳-デルファイ法を用いた緩和ケア関連18団体による共同作成- Palliat CareResarch14(2) 61-66