事業場におけるメンタルヘルスケア

事業場におけるメンタルヘルスケア

 労働者のンタルヘルスケアは、労働安全衛生法にのっとって進められてきました。昭和63年には、労働安全衛生法の一部が改訂され、新設された第70条2第1項に基づいて<事業場における労働者の健康保持増進のための指針>が出されました。この、いわゆる「トータルヘルスプロモーション指針(THP指針)」にもメンタルヘルスケアは盛り込まれていましたが、その後労働者の健康状況の調査によってメンタルヘルスケアの重要性が浮き彫りになり、平成12年には心の健康の保持増進を目的とした「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」が出されました。この流れを受け平成16年には、復職に関して「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」が作成されています。
 平成18年には、精神障害等に係る労災補償の請求件数、認定件数が増加傾向にあることなどを受けて、「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」を廃止し、労働安全衛生法の第70条2第1項を根拠として<労働者の心の健康の保持増進のための指針>が改めて出されました。

 「メンタルヘルス指針」としても知られる、この<労働者の心の健康の保持増進のための指針>では、ストレスの原因は仕事や家庭、地域などに存在するため、メンタルヘルスケアは労働者自身がストレスに気付き対処していくことが大切とする一方で、職場に存在ストレス要因は労働者自身の力だけでは取り除けないものもあるため、事業所がメンタルヘルスケアを積極的に推進していくことが重要とされます。そのために、事業所は、衛生委員会又は安全衛生委員会において十分調査審議を行い、メンタルヘルスケアに関する事業場の現状とその問題点を明確にするとともに、その問題点を解決する具体的な実施事項等についての計画を立て実施する必要があるとします。

 計画の実施にあたっては、メンタルヘルス不調を未然に防止する 「一次予防」、メンタルヘルス不調を早期に発見し、適切な措置を行う「二次予防」及びメンタルヘルス不調となった労働者の職場復帰の支援等を行う「三次予防」が円滑におこなわれるようにする必要があります。

 そして各段階において、労働者自身がストレスや心の健康について理解し、自らのストレスを予防、軽減するあるいはこれに対処する「セルフケア」、労働者と日常的に接する管理監督者が、心の健康に関して職場環境等の改善や労働者に対する相談対応を行う「ラインによるケア」、事業場内の産業医等事業場内産業保健スタッフ等が、事業場の心の健康づくり対策の提言を行うとともに、その推進を担い、また、労働者及び管理監督者を支援する「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」及び事業場外の機関及び専門家を活用し、その支援を受ける「事業場外資源によるケア」の4つのケアが、継続的かつ計画的に行われることが重要です。事業場内産業保健スタッフのうち産業医は、労働者の健康管理を担う専門的立場から対策の実施状況の把握、助言・指導などを行います。また、ストレスチェック制度及び長時間労働者に対する面接指導の実施やメンタルヘルスに関する個人の健康情報の保護についても、中心的役割を果たします。

 4つのケアを進めるに当たって、具体的には(1)メンタルヘルスを推進するための教育研修、(2)労働環境等の把握と改善、(3)メンタルヘルス不調への気づきと対応、(4)職場復帰における支援、といった取り組みを積極的に推進することが効果的です。ちなみに、労働者への教育研修・情報提供の内容としては、①メンタルヘルスケアに関する事業場の方針、②ストレス及びメンタルヘルスケアに関する基礎知識、③セルフケアの重要性及び心の健康問題に対する正しい態度、④ストレスへの気づき方、⑤ストレスの予防、軽減及びストレスへの対処の方法、⑥自発的な相談の有効性、⑦事業場内の相談先及び事業場外資源に関する情報などが挙げられます。

 事業者がメンタルヘルスヘアを推進するにあたっては、心の健康については客観的な測定方法が十分確立していないといった心の健康問題の特性や、個人情報の保護などに留意する必要があります。特に、メンタルヘルスに関する労働者の個人情報は特に適切に保護しなければならない一方で、対応に当たっては労働者の上司や同僚の理解と協力のため当該情報を適切に活用することが必要となる場合もあること、産業医などが相談窓口や面接指導等により知り得た健康情報を含む労働者の個人情報を事業者等に提供する場合には提供する情報の範囲と提供先を必要最小限とする一方で、当該労働者の健康を確保するための就業上の措置を実施するために必要な情報が的確に伝達されるように集約・整理・ 解釈するなど適切に加工した上で提供するなどに留意します。また、メンタルヘルスケアは人事労務管理と連携しなければ適切に進まない場合が多いこと、家庭・個人生活等の職場以外の問題などにも留意することが重要です。

関連問題

●2018年-問29問112 ●2019年-問104 ●2020年-問27

参考文献