WAIS、WISCの結果の見方 -非専門家向け-

はじめに

 ここでは、専門家ではない一般の方向けに、WAIS-Ⅳについて解説しようと思います。

 最近、「WAIS-Ⅳを受けたけれど結果がよくわからなかった」、「結果をどう役立てていけばいいのかわからなかった」といった話を立て続けに耳にすることがありました。それについて、私が何かをしたところで解決するとは思っていないのですが、私にできることをできたらいいと思い、解説をすることにしました。いち心理職の私の力は微力ではありますが、検査を受けた方が、その結果をより今後の生活に役に立てるための助けになりましたら幸いです。

 これからの文章にでてくる「WAIS-Ⅳ」という言葉は、基本的には「WISC-Ⅳ」と読み替えることができます。「WISC-Ⅴ」については、後述する指標が増えており、「WAIS-Ⅳ」とは構造が違っているため、読み替えることができません。ただし、それ以外の部分については、参考にしてもらうことはできると思います。

WAIS-Ⅳとは何か

 WAIS-Ⅳとは、知能をはかる検査です。WAISは「ウェイス」と読みます。では、WAIS-Ⅳがはかる「知能」とは、一体どんなものなのでしょうか。

 「知能」と聞いて、まず思い浮かぶのは「学校の勉強」という方は少なくないでしょう。学校で習う教科を見てみると、例えば「国語」と「算数」がありますが、この2つは頭の使い方が少し違うというのは体験として分かるのではないでしょうか。

 それぞれをより細かく見ていくと、国語で教科書を音読する時には、「文字を認識する能力」、「適切な音量で発音する能力」、「すらすらと発言する能力」、などが必要ですし、文の意味も理解しようとするなら「言葉の意味が分かる能力」や「文脈から意味を推測する能力」や、もっと言えば「情景をイメージする能力」、「登場人物の立場に立って考える能力」なども必要になってくるでしょう。算数で問題用紙に書かれた計算をする時には、「数字を読む能力」や「数字を理解する能力」、「足し算や引き算、割り算、掛け算をする能力」、「答えを文字にする能力」などが必要になるでしょう。

図1 「学校の勉強に関する知能」の全体像

 このように、知能は様々能力から成り立っています。そして、それらを近しい能力同士のまとまりとして見てみると「国語に関する能力」や「算数に関する能力」といった一つ上の層の知能が見えてきます。さらにそれらを総合すると「学校の勉強に関する能力」といったさらに一つ上の層の知能が見えてくる、といった具合になっています。

 ここに挙げたものはあくまでも例えですが、「知能」はこういった階層状態になっていると考えられています。WAIS-Ⅳでは、このように様々にある能力の中から、いわゆる「知能」をはかるために大切だと考えられる能力を研究して選び、それをもとにより上の層の「知能」をはかっています。

 

WAIS-Ⅳで分かること

 WAIS-Ⅳでは、結果を下のような図や表にまとめて伝えることが多いです。

図2 WAIS-Ⅳの結果(表と図)

 この表と図は、私がとったものではなく、とある専門家向けの資料の中に、伝え方の例としてあげられているものです。専門家が、個人の検査結果を不特性多数の目につくように扱うことはないので、安心してください。

 表の一番左の列に書かれている言葉の意味は以下の通りです。

  • 全検査 IQ(FSIQ):総合的な知能です。いくつもの能力が組みあわさったものと考えられています。
  • 言語理解指標(VCI):言語の理解度や言語を使う力です。聞く・話す能力です。
  • 知覚推理指標(PRI):見たものを理解する、あるいは場の状況や関係の理解をする力です。それをもとに、予測したり推理したりする力も含みます。
  • ワーキングメモリー指標(WMI):耳で聞いた情報を、頭の中にいったん留めながら操作する力です。
  • 処理速度指標(PSI):見たものを正確に速く処理する力です。

図3 用語があらわしているもの

 「VCI」や「PRI」は、先ほどの例でいうと「文字を認識する能力」や「適切な音量で発音する能力」でなく、「国語に関する知能」や「算数に関する能力」と同じ層のものです。

図3 WAIS-Ⅳの全体像

 能力A、能力B、能力Cといったところに関しては、一般の人の目には触れないようにする決まりになっています。前知識のない状態で検査を受けるということが正確な結果を出すために必要なので、検査の細かい内容がもれてしまうと検査の価値がなくなってしまうからです。また、能力A、B、Cは変動しやすいなどの理由から、FSIQやVCIといった、より安定した情報をもとに、結果を伝える方が良いとされています。ですので、ここでも能力A、B、Cの詳細については触れません。

 FSIQやVCIなどのほかに、下に書かれているような、結果をより正確に、わかりやすくするための情報も一緒にわかります。

  • 合成得点:複数の得点を合成して得られた得点です。自分の年齢に近い人たちと比べた時に、平均が100になるようになっている数字であらわされます。
  • パーセンタイル順位:ある得点の下に何%の子どもが位置するかをあらわす数値で、同じ年齢の人たちと比較したときの位置をあらわしています。例えば、パーセンタイル順位が20の場合、同じ年齢の人たちの中には、それより上の人が80%程度いることになります。
  • 信頼区間:知能検査の結果は、検査時の環境や、体調によって多少上下することがあるため、数値はある程度の幅がとられています。それが信頼区間です。信頼区間90%とは、100回検査をやったら90回はこの幅の中に結果が入る(90%)よ、というものです。FSIQや指標の数値は、点ではなく、幅をもってとらえることは大切です。
  • 記述分類:結果を一定のルールで分類したものです。同じ年齢の集団における位置をあらわしているにすぎず、平均より高いから良いとか、低いから悪いということは意味していません。

図5 結果の見方

 このほかにも、この図表には言葉として記載されていませんが、その人のもつ能力同士を比較して得意不得意を知ることもできますし、その人と同じ年齢の人たちを比較して得意不得意を知ることもできます。また、能力同士の差が、誤差なのか、しっかりとした意味のある差なのかといったことも知ることができます。

検査結果の使い方

 検査の結果は、基本的に検査を受ける目的に応えるために使われます。検査はただやみくもにおこなわれることはありません。何らかの目的があって、それに対して検査をおこなうことが適切だと判断されたからおこなわれるのです。ですので、結果はその目的に応えるように伝えられるはずです。

 例えば、先ほどの図表(図2)が、「授業中、課題のやりかたを間違えて時間内に終えられないことが多い。対応の参考にしたい。」という目的で受けた検査の結果だったとしたら、PRIの高さから「見たものを理解したり、見たものから予測や推理をすることが得意なようなので、課題のやり方の説明は、言葉だけでなく、目の前で実際にやって見せたり、解説用の図やイラストを添えると良さそうです。」などと伝えられるかもしれません。このようにして、伝えられたことを今後の参考にしていくというのが、検査結果の一つの使い方です。

 検査の目的に対する答えがよくわからなかった、そもそも伝えられなかったというように、不十分さを感じる場合には、検査をおこなった専門家にそのことを伝えて、改めて検査結果をどのように使ったら良いかを尋ねてみても良いでしょう。この文章を読みながら、専門家でない人が、手元にある検査結果の用紙を見て、そこに文章で書かれている以上のことを理解しようとするのはとても難しいことです。そもそも、それは専門家の仕事のはずなのですから。

 また、検査の結果を唯一絶対の正解としてみないということも大切です。信頼区間というものがあるように、結果は変動する可能性があるものです。また、WAIS-Ⅳは、普段生活している状況とは違う、静かな検査室で、検査者と1対1でおこなわれるので、騒がしい教室や、沢山の人とのかかわりの中では、違った様子が見られるかもしれません。さらに、WAIS-Ⅳでは、「コミュニケーション能力」や「スポーツ能力」といった能力をはかることができません。こういった検査の限界を頭にとどめたうえで、参考として結果を使っていくという姿勢も大切になります。「検査の結果がこうだから、この人はこういう人だ」というよりも、「検査の結果はこうだけど、本当にそうか改めて確認してみよう」位でちょうど良いと思います。

検査に関する誤解

 よくある誤解は、「検査をとると発達障害かがわかる」といったものです。これは正しくありません。そもそも発達障害かどうかは、医師が色々な情報をもとに診断をすることで決まります。例えば、体の調子が悪くて病院に行くと、調子の悪さについて聞かれ、触診されたり、血液検査やレントゲン検査をされたりします。そして、医師がそれらを総合的に見て診断をします。一つの情報からだけではなく、色々な情報を総合的に見て診断がおこなわれるというのは、体の問題でも、心の問題でも同じです。

 心理検査は、血液検査やレントゲン検査、話を聞くことで得られる情報などと同じ、色々な情報の一つにすぎません。ですので、「検査をとると、医師が発達障害かどうかを診断するための手がかりが一つ増える」というのがより正確な表現だと思います。

 「WAIS-Ⅳの練習をしてIQをあげる」というのも誤った理解です。もしも、先ほどの結果が、WAIS-Ⅳの練習をしたもので、本来はこの図の点線のようなものだったとしたらどうでしょう(図5)。

図5 検査以外の状態

 WAIS-Ⅳの練習をすればWAIS-Ⅳだけはできるようになるかもしれませんが、それは日常生活の状態からかけ離れてしまうかもしれません。先ほどは、PRIの高さから「見たものを理解したり、見たものから予測や推理をすることが得意なようなので、課題のやり方の説明は、言葉だけでなく、目の前で実際にやって見せたり、解説用の図やイラストを添えると良さそうです。」と伝えたものが、検査以外ではむしろPRIが低かったとなると、まったく的外れなコメントになってしまうのです。

 「WAIS-Ⅳの練習をしてIQをあげようとしている状態」は、目的に到達するための手段だったものが、目的にかわってしまっている状態です。そもそもIQをあげたいのはなぜでしょう。何か困りごとがあって、それを解決するためにIQをあげたいと思った場合、目的はIQをあげることではなく、困りごとを解決することです。困りごとを解決するための適切なヒントを探すためには、ありのままのその人が検査にあらわれてくる必要があるのです。

さいごに

 ここまで読んでみていかがでしたでしょうか。WAIS-Ⅳの結果の見方や、使い方について、多少は理解が進みましたでしょうか。何らかの形で役に立っていたならばうれしいです。

 ただ、心理検査の結果は、個別性の高いものです。また、文章だけでは正確に伝えられないこともあります。そのため、検査の結果について、ここに書かれていることを読んで自分一人で判断したりせず、心理検査の知識のある専門家に確認をしながら、理解を進めていってください。

 WAIS-Ⅳを受けたすべての人が、その恩恵を十分に受けることができますように。