ウェクスラー式知能検査

ウェクスラー式知能検査

 ウェクスラー式知能検査は、ウェクスラー(Whechsler,D.)によって作成された、受験者の知能を評価するための検査です。第一次世界大戦の際、入隊者を選別するための指標として知能尺度が必要となり、言語要素を主体として陸軍アルファ式集団知能検査が開発されました。しかし、入隊者の中には読み書き能力が限られている者もいたため、後に非言語性の要素を主体とした陸軍ベータ式集団知能検査が開発されました。こういった経緯を踏まえ、ウェクスラーは1939年に、言語性および非言語性の尺度を備えたウェクスラー・ベルビュー知能検査を開発しました。この検査は、知能は個人の行動を全体として特徴づけることから全体的な存在であると同時に、互いに異なる要素または能力で構成されることから特異的でもあるというウェクスラーの考えが前提となっています。

 ウェクスラー・ベルビュー検査は、1949年に児童向けウェクスラー式知能検査(Wechsler Intelligence Scale for Children : WISC)として、1955年にはウェクスラー成人知能検査(Wechsler Adult Intelligence Scale: WAIS)として、修正・拡張されました。また、未就学児に対してはWPPSI(Wechsler Preschool and Primary Scale of Intelligence)が1967年に開発されており、以降、各々の検査は改訂を重ねています。

WAIS

 WAISは、大人を対象とした知能検査です。WAISの改定版である、WAIS-Ⅳの対象年齢は、16歳0ヶ月から90歳11ヶ月となっています。複数の下位検査をおこなうことで、全検査IQ(Full Scale IQ: FSIQ)、言語理解指標(Verbal Comprehension Index : VCI)、知覚推理指標(Perceptual Reasoning Index : PRI)、ワーキングメモリー指標(Working Memory Index : WMI)、処理速度指標(Processing Speed Index : PSI)という5つの合成得点を算出することができるようになっています。VCIは、言語概念形成、言語推理、環境から得た知識の測度です。PRIは、知覚推理、流動性推理、空間処理、視覚と運動の統合の測度です。WMIは、注意、集中、メンタルコントロール、推論を含むワーキングメモリーの測度です。PSIは単純な視覚情報を素早く正確に読み込む、順に処理する、あるいは識別する能力の測度です。
 課題は、言葉のやり取りで進めるものや作業によって進めるものなどがあります。例えば、類似は言葉のやりとりによって進めていきます。また、制限時間があるものとないものなどもあり、例えば行列推理は制限時間がありません。数唱は、一つとして注意の程度が成績に影響するとされます。

 各合成得点は、各々複数の基本検査と補助検査から構成されています。WAIS-Ⅳの対象年齢は16歳0ヶ月から90歳11ヶ月ですが、一部の下位検査では対象年齢が異なるものもあります。

 検査の実施は、可能な限り規定の順序で実施します。また、できる限り1回で下位検査全てを実施する必要があります。もしも検査が2回にわたるような場合は、2回目の検査は1回目のあとできるだけ早く、1週間以内におこなうことが望ましいとされます。

 合成得点は100を中心とした正規曲線と比較して、得点の位置を把握することができます。合成得点の範囲とその割合、分類は以下の通りです。

  • ≧130点(2.2%):非常に高い
  • 120-129点(6.7%):高い
  • 110-119点(16.1%):平均の上
  • 90-109点(50%):平均
  • 80-89点(16.1%):平均の下
  • 70-79点(6.7%):低い(境界域)
  • ≦69点(2.2%):非常に低い

 検査の結果を検討していく際に、このように認知機能をより狭義の領域に分けて評価することにはメリットとともに注意すべき問題も指摘されています。例えば、処理速度に分類される下位検査であっても、言語による指示を理解し、視覚刺激を判別し、情報を処理し、運動機能を行使して解答するという能力が含まれるように、認知機能は機能的かつ神経学的に相互に関連しているため、認知機能の純粋な単一領域を評価することはそもそも困難です。また、認知能力尺度による結果は、知能を構成する全体の一部を反映しているに過ぎません。こういった点を考慮して、検査結果を検討していく必要があります。

WISC

 WISCは、児童を対象とした知能検査です。WISCの改定版であるWISC-Ⅳは、5歳0ヶ月から16歳11ヶ月が対象となっています。基本的にはWAIS-Ⅳと同様の構造となっており、複数の下位検査から、FSIQ、VCI、PRI、WMI、PSIの合成得点が得られます。下位検査は、一部WAISと質的に異なるものがあります。

WPPSI

 WPPSIは、未就学児を対象とした知能検査です。WPPSIの改定版であるWPPSI‐Ⅲの対象年齢は2歳6か月から7歳3か月となっています。5歳以上の子どもには、その子どもの認知能力や背景情報に応じてWPPSI-IIIかWISC-IVを選択することができます。

関連問題

●2022年-問17問61 ●2021年ー問16問95 ●2018年-問76問137 

参考文献

  • Wechsler,D(著) 日本版WAIS-Ⅳ刊行委員会(訳) 2018 日本版WAIS-Ⅳ知能検査 理論・解釈マニュアル 日本文化科学社
  • Wechsler,D(著) 日本版WISC-Ⅳ刊行委員会(訳) 2010 日本版WISC-Ⅳ知能検査 理論・解釈マニュアル 日本文化科学社