社会的養護
保護者による児童の虐待や育児放棄、保護者の病気など様々な要因で、家庭で養育できない子どもは、都道府県や政令市、中核市などに置かれた児童相談所に一時保護された後、児童養護施設や里親等の下で養育されます。これを社会的養護とよびます。社会的養護は、心身に傷を負ったり、安定した生活を十分経験していなかったりする要保護児童の健全な発達を図る重要なものです。
厚生労働省は、おおむね5年ごとに「児童養護施設入所児童等調査」を実施しています。これは、児童福祉法に基づいて、里親等に委託されている児童、児童養護施設等に措置されている児童等の実態を明らかにして、要保護児童の福祉増進のための基礎資料を得ることを目的としたものです。
この調査では、里親、児童養護施設、児童心理治療施設、児童自立支援施設、乳児院、母子生活支援施設、ファミリーホーム、自立援助ホームなどに入所している児童の年齢や委託時の年齢、委託期間や経路、家庭との関係などが調べられます。
平成30年におこなわれた調査の結果は、令和2年に発表されました。それによると、平成25年では、47776人だった児童養護施設入所児童は、平成30年では、合計45683人に減りました。児童数は里親が 5,382 人(前回平成25年 4,534 人)、児童養護施設が 27,026 人(前回 29,979 人)、児童心理治療施設が 1,367 人(前回 1,235 人)、児童自立支援施設が 1,448 人(前回 1,670 人)、乳児院が 3,023 人(前回 3,147 人)、母子生活支援施設が 5,308 人(前回 6,006 人)、ファミリーホームが 1,513 人(前回 829 人)、自立援助ホームが 616 人(前回 376 人)でした。
また、児童の委託期間または在所期間は、「1年未満」が多く、期間が長くなるに従い児童数が漸減する傾向となっています。
入所児童のうち被虐待体験がある児童は、半数以上に及びます。里親で38.4%(前回31.1%)、児童養護施設で65.6%(前回59.5%)、児童心理治療施設で78.1%(前回71.2%)、児童自立支援施設 で64.5%(前回58.5%)、乳児院で40.9%(前回35.5%)、母子生活支援施設で57.7%(前回50.1%)、ファミリーホーム53.0%(前回55.4%)、自立援助ホーム71.6%(前 回65.7%)となっています。
これと関連して、一般的に「虐待」とされる「放任・怠だ」「虐待・酷使」「棄児」「養育拒否」が養護問題発生理由の4割前後を占めています。里親は全体の 39.3%(前回 37.4%)、児童養護施設は 45.2%(前回 37.9%)、児童心理治療施設は 39.6%(前回 50.0%)、児童自立支援施設は 19.4%(前回 41.7%)、乳児院は 32.6%(前回 27.1%)、ファミリーホー ムは 43.4%(前回 38.4%)、自立援助ホームは 45.5%(前回 35.6%)となっています。
入所施設などを利用すると、家族との交流が一切なくなるかというと、そうではありません。里親では交流が少ないものの、他の施設に入所している児童の過半数の児童が、家族との交流を持っています。家族との交流関係について「交流なし」の割合は、里親で 70.3%(前回 72.4%)と高いものの、児童養護施設で 19.9%(前回 18.0%)、児童心理治療施設で 15.9%(前回 14.8%)、 児童自立支援施設で 13.7%(前回 10.8%)、乳児院で 21.5%(前回 19.4%)、ファミリーホームで 36.9%(前回 40.5%)、自立援助ホームで 47.4%(前回 41.2%)となっています。
ただし、見通しとして保護者のもとへ復帰するという選択肢は、児童心理治療施設と児童自立支援施設を除いて、第一選択肢にはなっていません。
入所児童の大学・短期大学への進学率は、おおよそ3割となっています。児童の就学状況は、各施設が対象とする児童の年齢とも関係してきますが、高校卒業後に公立の大学・短大へ進学している児童は43名、私立の大学・短大は116名、特別支援学校専攻科は25名、専修・各種学校は132名、職業訓練校が9名、就職が165名、不詳61名で、大学・短期大学への進学が508名中159名となっています。
社会的養護の在り方について、国際連合の「児童の代替的養護に関する指針」では、「児童が家族の養護を受け続けられるようにするための活動、又は児童を家族の養護のもとに戻すための活動を支援し、それに失敗した場合は、養子縁組やイスラム法におけるカファーラなどの適当な永続的解決策を探ること」を指針における狙いの一つとしているように、その永続的解決(パーマネンシ―)が重要視されるようになっています。
日本では、平成 28 年児童福祉法改正で、子どもが権利の主体であることを明確にし、家庭への養育支援から代替養育までの社会的養育の充実とともに、家庭養育優先の理念を規定し、実親による養育が困難であれば、 特別養子縁組による永続的解決(パーマネンシー保障)や里親による養育を推進することを明確にしました。
この、新しい社会的養育のビジョンでは、子どもの知る権利を担保するために、「代替養育を担う施設や里親においても、少なくとも、対象の子どもが亡くなるまで記録を法人が責任をもって保存すべきである。法人が解散するために保存ができなくなる時には、その施設に過去に在籍していた者に通知する、措置した児童相談所や都道府県等で一括して保管するなどして、保存に努めるべきである。」としており、特に児童相談所に係った子どもについては「少なくとも代替養育(一時保護を含む)が行われた子どもに関しては、永年保存を行うべきである。」としています(新たな社会的養育の在り方に関する検討会 平成29年8月2日)。