貯蔵

貯蔵

記憶の分類

 長期記憶は、ほぼ無限の容量をもつ永続的な記憶であり、記憶されている情報については様々な視点から分類することができます。
 ひとつとして、その記憶が言語的に記述できるかどうかで区分することができます。言語的に記述可能な事実に関する記憶を、宣言的記憶、必ずしも言語的に記述できるとは限らない手続きに関する記憶を手続記憶といいます。タルヴィング(Tulving,E.)はさらに、宣言的記憶を時間的・空間的文脈に位置づけることのできる個人的経験に関する記憶(エピソード記憶)と、言語や概念などの一般的知識としての記憶(意味記憶)とに区分しています。
 また、自己の過去経験の想起意識が有るか無いかで区分することもできます。たとえば、一連の単語を覚えた後に、覚えた単語にどんなものがあったかを思い出す場合、思い出すという想起意識を伴います。しかし、お茶かコーヒーのどちらが好みかを尋ねられてそれに答える場合、その背景には過去の経験の記憶が存在すると考えられますが、そういった記憶は想起意識を伴いません。このように自己の過去経験の想起を伴う記憶を顕在記憶、伴わない記憶を潜在記憶と区分することができます。
 そのほかにも、自己にとって重要な意味を持ちアイデンティティと密接に関係する記憶(自伝的記憶)や、劇的で感情を強く動かされるような重大な出来事について初めて知らされた時の状況を鮮明かつ詳細に想起する記憶(フラッシュバルブ記憶)、将来の目標やプランについての記憶(展望記憶)思い出そうとしていないにもかかわらず突然意識に上がってくる記憶(不随意的記憶)など、記憶の特性から、様々に記憶を分類することができます。

キリアンの意味ネットワークモデル、活性拡散モデル

 記憶がどのように貯蔵されているかということに関して、意味記憶の表象のモデルとして代表的なものに、概念やその関係をネットワーク構造で表現するネットワーク・モデルがあります。コリンズとキリアン(Collins,A.M.&Quillian,M.R.)のモデルでは、概念はノードと呼ばれる点で表され、概念間の関係はそれらを結ぶリンクとよばれる線で表されます。またネットワークは上位概念から下位概念へと階層的に構造化されています。そして、個々の概念のもつ特性はその特性を一般的にもつ最も上位の概念に貯蔵されると仮定されているのです。たとえば、「カナリア」という概念はその上位概念である「鳥」と、そして「鳥」はその上位概念である「動物」と結び付けられています。また、カナリアの特性である「黄色い」などの情報はカナリアのノードで貯蔵されていますが、「翼がある」といった他の鳥にも共通する特性は鳥のノードに貯蔵されます。コリンズとキリアンは文の真偽判断課題に対する反応時間を測度として検討するという、意味記憶研究のための新たな研究パラダイムを開発し、ネットワーク・モデルの心理学的実在性を実証しました。
 活性化は、ネットワークのリンクに沿って、勾配をもって拡散するという考え方を活性化拡散モデルと言います。たとえば、「テレビ」を処理すると、その概念が活性化されるばかりでなく、活性化はテレビと意味的に関連する、すなわちネットワークで近接して貯蔵されている概念へ拡散する。その結果、「ラジオ」も活性化するというわけです。

関連問題

●2018年-問84 ●2018(追加試験)-問24問118

参考文献

  • 無藤隆・森敏昭・遠藤由美・玉瀬耕治 2018 心理学新版 有斐閣
  • 中島義明・安藤清志・子安増生・坂野雄二・繁桝算男・立花政夫・箱田裕司(編) 1999 心理学辞典 有斐閣