判断・意思決定

判断・意思決定

 私たちの思考は2つのシステムを持っていると考えられています。1つは、自動的に高速で働き、努力はまったく不要か、必要であってもわずかであり、コントロールしている感覚が一切ないものです。もう1つは、複雑な計算など頭を使わなければできない困難な知的活動にしかるべき注意を割り当てるもので、代理、選択、集中などの主観的経験と関連づけられるものが多いものです。カーネマン(Kahneman,D )は、前者を”システム1″、後者を”システム2″として、私たちの選択と判断の働きについて説明をしています。その中で、システム1は、以下のような特徴を持っているとされます (Kahneman,D 2011) 。

  • 印象、感覚、傾向を形成する。システム2に承認されれば、これらは確信、態度、意志となる。
  • 自動的かつ高速に機能する。努力はほとんど伴わない。主体的にコントロールする感覚はない。
  • 信じたことを裏付けようとするバイアスがある(確証バイアス)。
  • 感情的な印象ですべてを評価しようとする(ハロー効果)。
  • 難しい質問を簡単な質問に置き換えることがある(ヒューリスティック質問)
  • 状態よりも変化に敏感である(プロスペクト理論)
  • 利得より損失に強く反応する(損失回避)
  • 関連する意思決定問題を狭くフレームし、個別に扱う など

 問題解決や情報処理において、必ずしも成功するとは限らないけれど、うまくいけば解決に要する時間や手間を減少することができるような簡略化された手続きや方法をヒューリスティックと言います(中島1999)。カーネマンは、システム1に、難しい質問にすぐに満足な答えが出せない時に、もとの質問に関連する簡単な質問(ヒューリスティック質問)に答えるといった特徴があるとし、ヒューリスティックが生じる事との関連を述べています(Kahneman,D 2011)。
 ヒューリスティックはいくつかの分類が可能で、あるものやことがらが、あるカテゴリーに属する可能性が高いかどうかを判断する際に使用する代表性ヒューリスティックや、簡単に利用できる情報をさして精査せずに使用する利用可能性ヒューリスティックなどが知られています(池田(他) 2010、齊藤 2011)。例えば、栄養の事を詳しく知らなくても、食事の時に高カロリーのものを避けようとして高カロリーの代表例である揚げ物を選ばないようにしたりする時には前者が、ニュースで精神障害者の重大事件が大きく扱われるのを思い出して、重大事件は精神障害者が良く起こすと考えたりする時には後者が使われたりしています。

 プロスペクト理論とは、カーネマンとトバスキー(Tversky.A)によって提唱された、リスク下の意思決定モデルです(Kahneman.D,Tversky.A 1979)。プロスペクト理論では、確実に得られる結果と比べて単に可能性が高いだけの結果を過小評価する確実性効果や、検討しているすべての見通しに共通する要素を考慮しない孤立効果といった傾向を踏まえて、価値に関する関数を導きました。
 結果の価値については、もらえると思っていなくてもらった1万円は1万円の利益だが、2万円もらえると思っていてもらった1万円は1万円の損失になるように、評価がその状態ではなく中立の参照点に対しておこなわれること、0円が1万円に増えればありがたみは大きいが、100万円が101万円に増えてもありがたみは相対的に少なくなるといった感応度逓減性、損失は利益よりも強く感じられる損失回避性といった特徴を備えており、関数に見て取ることができます(Kahneman,D 2011)。

 

 また、意思決定は、問題の提示のされ方にも影響を受けます問題の提示の仕方が考えや選好に不合理な影響をおよぼす現象をフレーミング効果と言います(Kahneman,D 2011)。フレーミング効果を検証するために、以下のような質問がされました(Tversky.A Kahneman.D. 1981)。

「アメリカが特異的なアジア病という病気に備えていると想像してください。アジア病では600人が死ぬと予測されます。ここで、病気に対処するために2つのプログラムを選べます。科学的に正確に見積もられたこのプログラムの結果は以下の通りです。

もしもプログラムAが選ばれれば、200人が救われる。

もしもプログラムBが選ばれれば、1/3の確率で600人が助かるが、2/3の確率で600人が死ぬ。」

この場合、この質問をされた152人のうち72%の人がAを、28%の人がBを選びました。一方で、別の人たちには以下のような質問がされました。

「もしもプログラムCが選ばれれば、400人が死ぬ。

もしもプログラムDが選ばれれば、1/3の確率で誰も死なないが、2/3の確率で600人が死ぬ。」

この場合、この質問をされた155人のうち22%がCを78%がDを選びました。これらの質問のうち、AとC、BとDは実質的には同じことを言っています。このように、問題の提示のされ方が、意思決定に影響を与えることをフレーミング効果と言います。

関連問題

●2022年-問8 ●2019年-問137 ●2018年(追加試験)-問120

引用・参考文献 

  • 池田謙一(他・著) 2010 社会心理学 有斐閣
  • Kahneman.A, Tversky,A. 1979 Prospect Theory An Analysis of Decision under Risk.Econometrica, Vol. 47, No. 2.  pp. 263-292.
  • Kahneman.D. Tversky.A 1981 The framing of Decisions and the Psychology of Choice, Science211 453-58
  • Kahneman, D.  2011  Thinking, Fast and Slow, Penguin.  村井章子(訳) 2014 ファスト&スロー あなたの 意思はどのように決まるか? 早川書房
  • 齊藤勇(編) 2011 図説 社会心理学入門 誠信書房