認知行動療法

認知行動療法

 認知療法は、ベック(Beck,A)によって創始された心理療法であり、構造化された、短期の、現在志向的な心理療法であり、非機能的な(正確ではない、そして/あるいは、有用でない)思考や行動を修正し、今抱えている問題を解決しようとするものです。ベックのモデルから発展した認知行動療法は、認知的ケースフォーミュレーションに基づくこと、そして治療の対象となる障害に特有の信念を扱い、それを変容させるための行動的戦略を用いることに特徴づけられます。

 認知療法の根底には、全ての心理学的な問題の背景には非機能的な思考が存在するという、「認知モデル」があります。これは、人の感じ方を決定するのは状況そのものではなく、状況に対する解釈の仕方であるという考え方に基づくものです。例えば、この文章を読んでいて、ある人は「認知行動療法についての知識の整理ができた。臨床にいかせそうだし、試験にも合格できそうだ。」と考えてわくわくしながら読み進めていくかもしれません。他の人は「そんなことは知っていた。このまま読み進めても新しい発見なんてないだろう」と失望して読むのをやめてしまうかもしれません。また、他の人は、「認知療法って難しそうだ。自分にはとてもじゃないけれどできなそうだ。」と落ち込み文章の内容が頭に入ってこないようなことになるかもしれません。このように、同じ状況にあったとしても、その状況をどう解釈したり、どう理解したりするかによって、その後の反応が左右されていきます。思考は、気分や行動、身体と相互に関連しているのです。

 その後の反応に影響を与える、すばやく、評価的な思考を自動思考と呼びます。自動思考は、熟考や推論の結果として導き出されるのではなく、自動的に湧き出てくるかのように感じられるといった特徴があります。この自動思考の妥当性や有用性を評価し、自動思考に適応的に対応することで、その後の結果は生産的なものへなり得ます。例えば、この文章を読んでいて「認知療法って難しそうだ。自分にはとてもじゃないけれどできなそうだ。」という考えが浮かんで落ち込み、文章の内容が頭に入ってこないような状況になっていたとしたら、この考えは少なくとも有用ではないでしょう。そうした時に、「確かに難しそうだし、習得は一筋縄ではいかなそうだ。ただ、違う本を読んでみてもいいかもしれないし、セミナーに参加してみてもいいかもしれない。そうする事で今より多少はましな状況になるだろう。」といった具合に検討し、対応できるとその後の学びは進んでいくことでしょう。

 自動思考には、その個人が持つ信念が影響しています。信念は、遺伝的素因の影響を受けながらも、世界や他者と交流するなかで作り上げられていくものです。例えば、ある人は「自分は無能だ」という信念を持っているかもしれません。また、それに基づいて「失敗するのは恐ろしいことだ」という構えや、「もし手に負えなそうだったらあきらめよう」いったルール、「難しいことに手を出すと失敗するだろう。それを避ければ安全でいられる。」といった思い込みなどを持っているかもしれません。こういった信念が自動思考に影響を及ぼしています。信念のかなでも最も基底的な層にあり、包括的かつ固定的で、過度に一般化されているものを中核信念と呼び、中核信念から影響を受けて構成される構えやルールや思い込みは媒介信念と呼ばれます。そして、媒介信念が、自動思考をはじめとした感情や行動に影響を与えると考えられています。中核信念を直接変えることができれば、それが患者の気分を改善し、適応的な行動を増やすために最も手っ取り早くありますが、多くの人は中核信念を明確化することはなく、その人にとっては完全なる真実としてみなされがちです。患者の信念が強固な場合には早期にその信念の妥当性に疑問をはさむことで、治療者に対する患者の信頼を失わせかねないため、一般的には自動思考のレベルから取り組んでいき、最終的に中核信念をとらえ変容することを目指していきます。

 認知療法では、認知、気分、身体、行動が相互に影響しあっていると考えます。例えば、「どうせ何をやっても無駄だ」と思えば(認知)、気分は落ち込み(気分)、体は重くなり(身体)、横になる(行動)といったことになるかもしれません。しかし、しばらくして起き上がって外に出てみると(行動)、体がぽかぽかと温まり(身体)、「いつもより少し体の調子がいい」と思えて(認知)、安心感がでてくるかもしれません(気持ち)。問題場面では、これらの要素がどのような関係性になっているのかを把握し、それに基づいて介入していきます。

 各々の要素は相互に影響しているので、どの要素に対してでも臨機応変にアプローチをしていくことができます。そのため、認知療法では応用行動分析で用いられる技法をはじめ、様々な技法が活用されます。ただし、気分と身体をコントロールすることは難しいため、基本的に認知と行動にアプローチをしていくことになります。これが認知行動療法たる所以です。治療者は、認知的ケースフォーミュレーションと各セッションにおける目的に応じて技法を選択していくのです。例えば、治療者は、非機能的な認知を同定し、対応するにあたって、誘導による発見を通じて患者がより適応的かつ現実的な見方ができるように手助けをしていきます。誘導による発見では、問題について話し合ったり、「その考えが真実だとしたら、どのような証拠があるのでしょうか?」や、「その状況に対して、別の見方はできるでしょうか?」、「自動思考を信じることに、どのような効果があるのでしょうか?一方、考え方を変えることで、どのような効果がありうるでしょうか?」といった具合の質問をしたりすることを通じて、患者が自らの認知と距離を置き、破滅的な認知から脱する手助けをしていきます。

 認知療法では、各セッションは構造化されており、①治療関係を形成する、②治療計画を立て、セッションを構造化する、③非機能的な認知を同定し、対応する、④ポジティブな側面を強調する、④セッションとセッションの間での認知的変化と行動的変化を促進する(ホームワーク)といった具合に進んでいきます。そうして、ホームワークの結果を踏まえて、面接が進展していくのです。

参考文献

  • Beck,J.S.(著) 伊藤絵美・神村栄一・藤澤大介(訳) 2015 認知行動療法実践ガイド・基礎から応用まで 第2版 星和書店
  • 伊藤絵美 2008 認知療法・認知行動療法事例検討ワークショップ(1) 星和書店
  • 伊藤絵美 2009 認知療法・認知行動療法事例検討ワークショップ(2) 星和書店
  • 伊藤絵美 2010 認知行動療法実践ワークショップⅠ ケースフォーミュレーション編(1) 星和書店
  • 伊藤絵美 2015 認知行動療法カウンセリング実践ワークショップ 星和書店
  • 大野裕 2003 こころが晴れるノート うつと不安の認知療法自習帳 創元社
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