子ども家庭支援
従来は、あらゆる児童家庭相談について児童相談所が対応するとされてきました。しかし、より高度な専門的対応が求められる児童虐待相談などの増加に加えて、身近な子育て相談のニーズも増大しているといった状況を受け、平成16年児童福祉法改正法によって、その位置づけが調整されました。都道府県等が設置主体となる児童相談所は、専門的な知識及び技術を必要とする事例への対応や市町村の後方支援に重点化し、住民に身近な市町村は虐待の未然防止・早期発見など比較的軽微なケースへの対応をおこなうなどとなったのです。
市町村
上述のように、児童や家庭への支援を担う機関としては、児童相談所のほかに市町村があります。平成28年児童福祉法等改正法により、市町村には、児童福祉法第10条の2に基づき、子ども等に対する必要な支援を行うための拠点を整備することが努力義務とされました。市町村は、住民等からの通告や相談を受け、一般の子育て支援サービス等の身近な各種の資源を活用することで対応可能と判断される比較的軽微なケースについては自ら対応し、立入調査や一時保護、専門的な判定、あるいは児童福祉施設への入所等の行政権限の発動を伴うような対応が必要と判断される困難なケースについては児童相談所に直ちに連絡するといった具合に、自ら対応可能と考えられる比較的軽微なケースへの対応や、重篤なケースに関する窓口を担うことなどが求められています。
市町村が通告を受けた場合、必要な情報を把握し、必要に応じて指導、助言をおこないます。また継続的に関わる必要がある場合には、協議をおこない担当者や方針を決めます。それに伴い、必要に応じて要保護児童対策地域協議会を開きます。
一方で、通告の内容が緊急に受理会議を開催する必要がある場合には、随時、緊急受理会議を開催し、緊急に児童相談所へ送致すべきケースについては速やかに児童相談所に送致し、児童相談所が中心になって子どもの安全確保をおこないます(市町村子ども家庭支援指針 平成29年3月31日)。
要保護児童対策地域協議会とは、虐待を受けた子どもに限らず、非行児童なども含む要保護児童等を対象に、要保護児童等に関する情報その他要保護児童の適切な保護を図るために必要な情報の交換を行うとともに、要保護児童等に対する支援の内容に関する協議などをおこなうものです。正確には、地方公共団体が設置者ですが、基本的には住民に身近な市町村が設置主体になることが想定されています。
地域協議会は、個別の事例について担当者レベルで適時検討する会議(個別ケース検討会議)だけでなく、実務担当者による会議(実務者会議)や構成員の代表者による会議(代表者会議)といった3層の会議が想定されています。会議には、児童福祉関係機関に限らず、地域の実情に応じて幅広い者を参加させることができます。
このような要保護児童対策地域協議会をひらくことの意義としては、
①要保護児童等を早期に発見することができる。
②要保護児童等に対し、迅速に支援を開始することができる。
③各関係機関等が連携を取り合うことで情報の共有化が図られる。
④情報の共有化を通じて、それぞれの関係機関等の間で、それぞれの役割分担について共通の理解を得ることができる。
⑤関係機関等の役割分担を通じて、それぞれの機関が責任をもって関わることのできる体制づくりができる。
⑥情報の共有化を通じて、関係機関等が同一の認識の下に、役割分担しながら支援を行うため、支援を受ける家庭にとってより良い支援が受けられやすくなる。
⑦関係機関等が分担をしあって個別の事例に関わることで、それぞれの機関の限界や大変さを分かち合うことができる。
といったことが挙げられます(要保護児童対策地域協議会設置・運営指針 令和2年3月31日)。
児童相談所
児童相談所は、「市町村と適切な役割分担・連携を図りつつ、子どもに関する家庭その他からの相談に応じ、子どもが有する問題又は子どもの真のニ-ズ、子どもの置かれた環境の状況等を的確に捉え、個々の子どもや家庭に最も効果的な援助を行い、もって子どもの福祉を図るとともに、その権利を擁護することを主たる目的として、都道府県、指定都市、及び児童相談所設置市に設置される行政機関」です。
児童相談所は市町村に対して、市町村のおこなう子どもや妊産婦の福祉に関する業務の調整や情報提供、必要な援助をおこないます。また、市区町村を超えた広い地域の子どもや妊産婦の福祉に関する実状を把握し、子どもに関する専門的な知識や技術を必要とする相談に応じることや、必要な調査と判定を行い、それに基づき指導すること、一時保護をおこなうことなどが業務となります。このように、児童相談所は、市町村援助機能、相談機能、一時保護機能、措置機能をもつとされます。
一時保護は、棄児、迷子、家出した子ども等現に適当な保護者又は宿所がないために緊急にその子どもを保護する必要がある場合や、 虐待、放任等の理由によりその子どもを家庭から一時引き離す必要がある場合など、児童相談所長又は都道府県知事等が必要と認める場合に児童福祉法第33条に基づいておこなわれます。
一時保護に関して、児童虐待防止法では、児童虐待に係る通告(児童虐待防止法第6条第1項)又は市町村等からの送致(同法第8条第1項第1 号)を受けた児童相談所は、子どもの安全の確認を行うための措置を講ずるとともに、必要に応じ一時保護(児童福祉法第 33 条第1項)を行うものとされ(児童虐待防止法第8条2項)、その実施に当たっては、速やかに行うものとするとされています(児童虐待防止法第8条3項)。
一時保護は、原則として子どもや保護者の同意を得て行う必要がありますが、子どもをそのまま放置することが子どもの福祉を害すると認められる場合には、この限りではありません。緊急一時保護の必要性は、通告や相談への対応における一連の流れの中で判断しますが、当事者が保護を求めており、かつ当事者が訴える状況が差し迫っている場合や、当事者が保護を求めていなくても、すでに重大な結果がある場合には、緊急一時保護が検討されます。一時保護された子どもには、必要に応じて社会的養護などが検討されます。
児童相談所のおこなう援助には、在宅指導等、児童福祉施設入所措置、指定医療機関委託、里親・小規模住居型児童養育事業委託、児童自立生活援助の実施、福祉事務所送致等、家庭裁判所送致、家庭裁判所に対する家事審判の申立てなどがあります。児童相談所は受理した相談について、種々の専門職員による調査・診断・判定をおこない、それに基づいて援助指針を作成して援助をおこないます。
児童福祉施設入所措置や指定医療機関委託に際しては、親権者などが反対の意思を表明している場合には強行できないものの、承諾を得ない限り措置の決定ができないというわけではありません。それでも、できる限りの承諾が得られるよう努める必要があるとされます。なお、子どももしくはその保護者の意向が児童相談所の措置と一致しないときには、都道府県児童福祉審議会の意見を聴かなければなりません。これは里親に子どもを委託する際にも同様です(児童相談所運営指針 平成21年3月31日)。
家庭裁判所
家庭裁判所は、下級裁判所の1つで(裁判所法第2条)、家庭に関する事件の審判及び調停や、少年の保護事件の審判などの権限を有します。(裁判所法第31条の3)。
家庭裁判所は、関係者からの請求によって、親権喪失(民法第834条)や、親権停止(民法第834条の2)の審判をすることができます。
関連問題
●2018年-問2、問105 ●2018年(追加試験)-問20、問79、問106 ●2019年-問42、問67、問72、問134 ●2021年-問53、問118