ストレス

ストレス

 ストレスとは、心身の適応能力に課せられる要求、およびその要求によって引き起こされる心身の緊張状態を包括的に表わす概念です。心身の適応能力に課せられる要求をストレッサー(stressor)、要求によって引き起こされる心身の緊張状態をストレス反応(stress response)またはストレイン(strain)とも呼びます。

ストレス反応


 生理学や医学領域では、ストレスを「反応」としてとらえることが多く、20世紀前半にはキャノン(Cannon,W.B.)が、生体が脅威場面に直面すると、交感神経系の亢進やアドレナリンの分泌などによる心拍数や呼吸数の増加、血圧の上昇、発汗など、脅威に対応するための準備状態として「闘争-逃走反応」が生じることを示しました。
 続いて20世紀中ごろにセリエ(Selye,H.)は、生体を有害刺激にさらすと、副腎皮質の肥大、胸腺・リンパ腺の萎縮、胃・十二指腸潰瘍という生理的変化が生じることを明らかにしました。この生理的変化は、どのような種類の刺激に対しても共通に引き起こされるもので、セリエはそれを「汎適応症候群」と名づけ、そのような状態をさすものとして、「ストレス」という言葉を用いました。
 汎適応症候群は、警告反応期、抵抗期、疲憊期の3期に分けられ、警告反応期はさらにショック相と反ショック相とにわけられます。警告反応期におけるショック相では、生体がストレッサーにさらされたためにショックを受け、体温や血圧・血糖値などの低下、胸腺の委縮、副腎皮質の機能低下などが起き、胃や腸に腫瘍ができたりします。続く反ショック相では、ショックに対する防衛反応として血圧が上昇するなど、変化が逆転します。その後、ストレッサーに対する抵抗力の高まりを見せる抵抗期を過ぎると、長期にわたるストレスに生体は適応し続けられなくなり適応のためのエネルギーが疲憊し警告反応の症状が再発する疲憊期へと至ります。
 これ以降、ストレスに関する生理学的研究は急速に進展し、ストレスが内分泌系、自律神経系、免疫系などに及ぼす影響について多くのことが明らかにされています。生理学的機序として、情動的・心理的ストレスは大脳皮質や大脳辺縁系を経由して視床下部の室傍核に伝わり、身体的ストレスは大脳皮質を経由せず、末梢からの情報が視床下部に伝わります。そして、ストレス反応系である「視床下部-下垂体前葉-副腎皮質系(HPA 系)」と「視床下部-交感神経-副腎髄質系(SAM 系)」を活性化させます。HPA系では、視床下部で生産された、副腎皮質ホルモン放出ホルモン(CRH)が、下垂体からの副腎皮質刺激ホルモンの分泌を促します。HPA 系が活性されると血液中に糖質コルチコイド(コルチゾールなど)が放出され、血圧上昇、血糖上昇(糖新生の増加)、心収縮力の上昇、心拍出量の上昇、免疫系(炎症抑制)など様々な生体の機能に影響を与えます。また、SAM 系が活性化されると血液中にカテコールアミンが放出され、血圧上昇、発汗、血糖上昇、覚醒、戦闘態度などの基礎反応が導かれます。

ストレッサー

 キャノンやセリエなどの生理学的研究に対し、初期の心理社会的ストレス研究では、ストレスを「刺激」ととらえて、健康との関連性についての検討がなされました。ホームズとレイ(Holmes,T.H. & Rahe,R.H.)は、人生に大きな影響を及ぼす出来事や生活上の大きな変化(ライフイベント)を経験することが心身疾患のリスクを高めると主張しました。すなわち、そのような出来事によって引き起こされた生活上の変化に再適応するために必要とされる努力がストレスとなり、健康に悪影響を及ぼすと考えました。
 それに対して、めったに経験することのないライフイベントよりも、日常経験することの多いちょっとしたトラブルやいらいらさせられるような出来事(デイリーハッスルズ)の方が、健康状態に対する予測力が高いという主張もあります。

ストレス媒介要因

 同じ体験をしてもすべての人が不適応状態に陥るわけではないことから、その媒介要因についても研究がすすめられました。
 精力的、競争心、急ぐ行動、短気、仕事への熱意、怒り、敵意に特徴づけられるタイプA行動パターンは、フリードマンとローゼンマン(Friedman,M. & RosenmanR.H)によって研究がなされた、虚血性心疾患および他の病気との関係の深い行動様式です。その他、心筋梗塞の再発例が多い事や、冠状動脈病変の重症度との関連が深い事なども示されています。ただし、タイプA行動パターンと虚血性心疾患との関連は必ずしも認められないとの研究結果もあり、すべてのタイプA行動の下位特性が、虚血性心疾患の危険因子というわけではないことも示されています。タイプA行動の下位特性の中でも、怒り及び敵意を示す行動と時間に追い立てられる行動は、心臓疾患の危険因子とされます。そのため、タイプA行動および攻撃性のセルフ・マネジメントの習得は健康を保つために重要であることも指摘されています。
 その他、完璧主義がストレス反応の原因となりやすく、ストレス過程においてストレス媒介変数の役割を果たしていることなどが知られています。
 また、ラザルスとフォークマン(Lazarus,R.S.&Folkman,S.)は、環境からの要求に対する認知的評価やコーピングという個人的変数を導入し、環境と個人との相互作用を強調する心理的ストレス・モデルを提唱しました。個人が環境からの要求に直面した場合、それがその個人にとって重要な関わりをもち、害や脅威、対処努力をもたらすものであると評価されると(一次的評価)、ネガティブな情動(抑うつ、不安、怒り、いらいらなど)が喚起されます。また、その要求をコントロールできるか否かの評価(二次的評価)が情動の種類や強度を規定します。すなわち、環境からの要求そのものが直接ストレス反応を引き起こすのではなく、要求の有害性やコントロール不可能性の評価がなされることによってはじめてその要求はストレッサーとなり、情動的ストレス反応を引き起こすものとなるのです。

コーピング

 ストレッサーによって喚起された情動的ストレス反応は、それを低減することを目的とした行動を動機づけます。このようなあらゆる行動はコーピングとよばれており、ストレッサーに対しては、色々なコーピング方法を用いることでストレッサーの影響を軽減することができます。
 ラザルスは、コーピングを問題中心対処と情緒中心対処とに二分しました。問題中心対処と情緒中心対処は、それぞれにいくつかの異なる種類の対処法から構成されています。問題中心対処は、問題そのものに焦点をあて、問題を明らかにしていくつもの解決方法を考え、その中から最も有効で犠牲の少ない解決方法を見出し、実行したりする方法です。情緒中心対処は、状況や結末の意味を変え、その状況をコントロールしているという感覚を持つことにより、精神的安定を保つようにする方法で、コントロールできない状況へ自分自身を適応させる二次的コントロールです。情緒中心対処に類する、自分自身の感情をコントロールしたり、ストレスとなる出来事に肯定的な意味を持たせたりする努力は、直接ストレッサーに働きかけるわけではないので問題の解決はできませんが、抑うつや不安感を軽減する効果があります。これらの対処法を状況とできごとにあわせて柔軟に用いることが好ましい対処方法とされます。
 コーピングが環境からの要求に対する有害性の評価を低減するように作用すればストレス状態は緩和されますが、そうでない場合にはストレス状態は慢性的に持続して、生理的ストレス反応や認知・行動的ストレス反応をもたらし、心身の健康を損なう可能性を高めるのと考えられています。また、コーピングを続けることで疲労も蓄積されていきますが、これをコーピングのコストといいます。
こうして対処の結果は再評価され、その後の対応へと影響を与えていきます。

関連問題

●2018年-問25問95 ●2018年(追加試験)-問100問112 ●2019年-問119

参考文献

  • Cannon, W.B (1914) The emergency function of the adrenal medulla in pain and major emotions. Am. J. Physiol. 33 356-372
  • Selye, H (1936) A syndrome produced by diverse nocuous agents. Nature, 138,32
  • 医療情報科学研究所 2011 病気が見えるvol.7. 脳・神経 メディックメディア
  • 久保真人 2007 バーンアウト(燃え尽き症候群)‐ヒューマンサービス職のストレス 日本労働研究雑誌558 p.54-64.
  • Lazarus,S.(他著) 本明寛(他・監訳) 1991 ストレスの心理学 実務教育出版
  • 長田久雄(代表) 2019 専門基礎4 看護と倫理 患者の心理 医学書院
  • 中野敬子 2005 ストレス・マネジメント-自己診断と対処法を学ぶ‐ 金剛出版
  • 日本健康心理学研究所 2013 ストレスコーピングインベントリー 自我態度スケール マニュアル 実務教育出版
  • 日本心理学諸学会連合 心理学検定局(編) 2015 心理学検定 基本キーワード[改訂版] 実務教育出版
  • 坂井建雄・久光正(監修) 2017 ぜんぶわかる 脳の事典 成美堂出版
  • 坂部弘之 1993 ストレス小論 公衆衛生研究42(3)p.366-374
  • 田中喜秀・脇田慎一 2011 ストレスと疲労のバイオマーカー 日薬理誌137 p.185-188
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