特別支援教育

特別支援教育

 特別支援教育は、障害のある幼児児童生徒の自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援するという視点に立ち、幼児児童生徒一人一人の教育的ニーズを把握し、その持てる力を高め、生活や学習上の困難を改善又は克服するため、適切な指導及び必要な支援を行うものです(特別支援教育の推進について)。障害のある子どもの学びの場は、特別支援学校、特別支援学級、通級による指導、通常の学級に用意されています(文部科学省 特別支援教育の現状)。

 日本ではもともと、障害のある子どもの学びは、障害種別におこなわれていました。 しかし、近年の障害のある児童生徒の教育をめぐる諸情勢の変化等を踏まえて、障害の程度等に応じ特別の場で指導を行う「特殊教育」から障害のある児童生徒一人一人の教育的ニーズに応じて適切な教育的支援を行う「特別支援教育」への転換を図る必要性が報告されました(今後の特別支援教育の在り方について(最終報告))。ここでは、個別の支援計画や特別支援コーディネーターの重要性などもあわせて指摘されています。
 そして、平成18年に学校教育法の一部改正を受け、それまでの盲学校、聾学校及び養護学校は特別支援学校とされました。また、それまで特殊学級とされていた学級は、特別支援学級とされました(特別支援教育の推進のための学校教育法等の一部改正について(通知))。これを皮切りに、特別支援教育が本格的に実施されていきます。

 平成19年の「特別支援教育の推進について」では、特別支援教育を推進するために、各学校の校長は、特別支援教育のコーディネーター的な役割を担う教員を「特別支援教育コーディネーター」に指名することとなりました。特別支援教育コーディネーターは、各学校における特別支援教育の推進のため、主に、校内委員会・校内研修の企画・運営、関係諸機関・学校との連絡・調整、保護者からの相談窓口などの役割を担うこととされます。

 また、平成24年7月には、「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システムの構築のための特別支援教育の推進」(中央教育審議会初等中等教育分科会報告)において、就学相談・就学先決定の在り方や・合理的配慮、基礎的環境整備について報告がなされました。

 特別支援教育を必要とする子どもの就学先は、本人の障害の状態等や教育的ニーズ、本人・保護者の意見、教育学・医学・心理学等専門的見地からの意見、学校や地域の状況等を踏まえた総合的な観点から、最終的には市区町村教育委員会が就学先を決定します。その際、教育支援委員会等を設置し、専門家の意見を聞きながら就学先決定のプロセスをたどっていくこととなりますが、特に市区町村教育委員会は教育支援委員会等の事務局として、保護者との信頼関係に基づいた十分な説明を行い、保護者との合意形成を図りながら就学先を決定していくことが求められます(障害のある子供の教育支援の手引~子供たち一人一人の教育的ニーズを踏まえた学びの充実に向けて~(令和3年6月30日))。

特別支援学校

 特別支援学校は、学校教育法第72条の規定に基づいています。特別支援学校では、幼稚園、小学校、中学校又は高等学校に準ずる教育とともに、個々の幼児児童生徒が自立を目指し、障害による学習上又は生活上の困難を主体的に改善・克服するために必要な知識、技能、態度及び習慣を養う指導がおこなわれます。

 このうち後者は、「自立活動」の指導を中心におこなわれます。障害のある幼児児童生徒の場合は、その障害によって、日常生活や学習場面において様々なつまずきや困難が生じることから、小・中学校等の幼児児童生徒と同じように心身の発達の段階等を考慮して教育するだけでは十分ではないと考えられます。そのため、特別支援学校では、小・中学校等と同様の各教科等のほかに、特に「自立活動」の領域を設定してその指導を行うことによって、人間として調和のとれた育成を目指しています。自立活動の指導に当たっては、個々の子どもの実態を的確に把握し、個別に指導の目標や具体的な指導内容を定めた個別の指導計画が作成されています(特別支援学校学習指導要領解説 自立活動編(幼稚部・小学部・中学部・高等部)平成21年6月 文部科学省)。

特別支援学級

 特別支援学級は、学校教育法第81条に基づいて行われます。小学校、中学校、義務教育学校、高等学校及び中等教育学校には、知的障害者、肢体不自由者、身体虚弱者、弱視者、難聴者、その他障害のある者で、特別支援学級において教育を行うことが適当なものに対して、特別支援学級を置くことができます(学校教育法第81条第2項)。

通級による指導

 通級指導の前身は以前からありましたが、平成5年(1993年)の学校教育法施行規則改正により、「通級による指導」が制度化されました1993 年の通級指導制度化の当初の対象は、言語障害、聴覚障害、視覚障害、自閉症/情緒障害でしたが、2006年度からは、学習障害と注意欠陥多動性障害が、新たに通級指導の対象として学校教育法施行規則に規定されました(浜 2022)。

 通級による指導は、学校教育法施行規則第 140 条及び第 141 条に基づき行われています。通級による指導とは、通常の学級に在籍する障がいのある児童生徒が、各教科等の大部分の授業を通常の学級で受けながら、一部の授業について、障がいに応じた特別の指導を「通級指導教室」といった特別な場で受ける指導形態のことで、障がいの状態がそれぞれ異なる個々の児童生徒に対し、個別指導や小集団指導等を通して、特別の指導をきめ細かに、かつ弾力的に提供するものです。通級による指導の担当教師は、教員免許状を有する必要がありますが、特定の教科の免許状を保有している必要はありません(文部科学省 (編)2018)。

 学校教育法施行規則第140条に示されている「特別の教育課程」を編成するに当たっては、当該児童又は生徒の障害に応じた特別の指導を、小学校、中学校又は中等教育学校の前期課程の教育課程に加えたり、その一部に替えることができます。この「障害に応じた特別の指導」とは、①障害の状態の改善又は克服を目的とする指導です。ただし、特に必要があるときは、②障害の状態に応じて各教科の内容を補充するための特別の指導も含みます(学校教育法施行規則第百四十条の規定による特別の教育課程について定める件(平成5年文部省告示第7号))。

関連問題

●2022年-問24 ●2021年-問56 ●2018年(追加試験)-問143 ●2018年-問27問127

参考文献

  • 浜えりか 2022 日本の通級指導のはじまりに関する歴史的検討-障害種別を横断した教師の実践・親の運動・専門家の参加と教育 Journal of Inclusive Education 11 68-82.
  • 文部科学省 2006 特別支援教育の推進のための学校教育法等の一部改正について(通知)
  • 文部科学省 2007 特別支援教育の推進について(通知)
  • 文部科学省 2009 特別支援学校学習指導要領解説 自立活動編(幼稚部・小学部・中学部・高等部)平成21年6月 
  • 文部科学省(編) 2018 障害に応じた通級による指導の手引―解説とQ&A 海文堂出版
  • 文部科学省 2021 障害のある子供の教育支援の手引~子供たち一人一人の教育的ニーズを踏まえた学びの充実に向けて~(令和3年6月30日)
  • 文部科学省 特別支援教育の現状(https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/002.htm) 最終閲覧日:2022年12月12日
  • 文部科学省 今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)(https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/054/shiryo/attach/1361204.htm) 最終閲覧日:2022年12月12日
  • 文部科学省 学校教育法施行規則第百四十条の規定による特別の教育課程について定める件(平成5年文部省告示第7号) (https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/clarinet/kaigi/1330294.htm)最終閲覧日:2022年12月12日
  • 中央教育審議会初等中等教育分科会 2012 共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システムの構築のための特別支援教育の推進(報告)