合理的配慮

合理的配慮

 2006年(平成18年) 第61回国連総会において障害者権利条約案・選択議定書が採択されたことを皮切りに、障害者の権利の実現のための様々な措置が講じられていきました。<障害者の権利に関する条約>は、障害は病気や事故から生じる個人の問題とするのではなく、障害は主に社会の側が作り出しているという「社会モデル」の考えのもと、合理的配慮を、障害者が人権と基本的自由を確保するための、「必要かつ適当な変更及び調整」としています。そして、合理的配慮をおこなわないことは差別に含まれる、ともしています。
 <障害者の権利に関する条約>へ署名した流れで、2012年(平成24年)には<障害者基本法>が改正されました。<障害者基本法>では、「障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない。」と差別の禁止をうたっており、社会的障壁の除去を実施する際には、合理的配慮がなされなければならないとしています。
 その後、2013年(平成25年)に、<障害者基本法>の「差別の禁止」規定を具体化するものとして、<障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律>が成立しました。<障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律>では、差別解消を進めるため、差別的取り扱いの禁止と、社会的障害の除去の実施に関して合理的配慮の不提供の禁止を定めています(独立行政法人 日本学生支援機構 2018)。この法律にのっとって、政府によって、<障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針>が、関係府省庁所管事業分野の事業者のために各主務大臣によって<事業者が適切に対応するために必要な指針>が策定されます(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律第6条、第11条)。

 <障害者基本法>においても、<障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律>においても、社会的障壁とは、「障害がある者にとつて日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のもの」をいいます。また、障害者とは「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害がある者であつて、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」をいいます(障害者基本法、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)。障害者は、いわゆる障害者手帳の所持者に限られません(障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針)。

 行政機関等や事業者は、「障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない」とされます(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)。
 このうち意思の表明は、本人からの意思の表明はもちろん、知的障害や精神障害(発達障害を含む。)等により本人の意思表明が困難な場合には、障害者の家族、介助者等、コミュニケーションを支援する者が本人を補佐して行う意思の表明も含みます。
 また、過重な負担は、事務・事業への影響の程度(事務・事業の目的・内容・機能を損なうか否か)、②実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約)、③費用・負担の程度、④事務・事業規模、⑤財政・財務状況を考慮して判断されます(障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針)。

 上述のように、関係府省庁所管事業分野の事業者のために各主務大臣によって<事業者が適切に対応するために必要な指針>が策定されますが、文部科学省の関連分野に関しては、<文部科学省所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針>が策定されています。その中で、学校教育分野においては、中央教育審議会初等中等教育分科会が平成24年7月に取りまとめた「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」や文部科学省高等教育局長決定により開催された「障がいのある学生の修学支援に関する検討会」が平成24年12月に取りまとめた「障がいのある学生の修学支援に関する検討会報告(第一次まとめ)」などに、合理的配慮の考え方が示されているとしています(文部科学省所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針)。

 初等中等教育段階における合理的配慮は、「「障害のある子どもが、他の子どもと平等に「教育を受ける権利」を享有・行使することを確保するために、学校の設置者及び学校が必要かつ適当な変更・調整を行うことであり、障害のある子どもに対し、その状況に応じて、学校教育を受ける場合に個別に必要とされるもの」であり、「学校の設置者及び学校に対して、体制面、財政面において、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」」として定義されています。
 合理的配慮は、「基礎的環境整備」を基に個別に決定されるものとされます。そのため、それぞれの学校における「基礎的環境整備」の状況により、提供される合理的配慮は異なることになります。例えば、「合理的配慮」は、各学校において、障害のある子どもに対し、その状況に応じて、個別に提供されるものであるのに対し、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校の設置などは、子ども一人一人の学習権を保障する観点から多様な学びの場の確保のための「基礎的環境整備」として行われているものになります(「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告))。

 大学等における合理的配慮は、「障害のある者が、他の者と平等に「教育を受ける権利」を享有・行使することを確保するために、大学等が必要かつ適当な変更・調整を行うことであり、障害のある学生に対し、その状況に応じて、大学等において教育を受ける場合に個別に必要とされるもの」であり、かつ「大学等に対して、体制面、財政面において、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」と定義されています(障がいのある学生の修学支援に関する検討会報告(第一次まとめ))。

 高等教育段階における障害学生の在籍者数は、平成18年から増加しています(障がいのある学生の修学支援に関する検討会報告(第一次まとめ))。例えば、令和3年度の大学生の総数3,055,843人に対して、大学における発達障害の支援障害学生数は5,434人となっています(令和 3 年度(2021 年度)大学、短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の就学支援に関する実態調査結果報告書)

 大学における合理的配慮の検討は、原則として、障害のある学生からの申し出によってはじまります。
 学生からの申し出があった場合、その学生にとってどのような配慮が有効か、その配慮が妥当かを判断する材料として、障害者手帳の種別・等級・区分認定や、適切な医学的診断基準に基づいた診断書、標準化された心理検査等の結果、学内外の専門家の所見といった根拠資料を求めます。ただし、合理的配慮の提供において、根拠資料は必須の条件というわけではありません。
 合理的配慮の決定手続きについては、学内規定を定め、それに沿って行ないます。合理的配慮の内容を検討する際、大学等が一方的に決めるのではなく、障害のある学生本人の意思決定を重視します。また、合理的配慮の内容は、授業担当者や特定の教職員の個人判断ではなく、委員会等で組織として最終決定がなされるようにします(独立行政法人 日本学生支援機構 2018)。

 また、試験においては、例えば弱視のある学生に対して拡大問題冊子の作成、解答用紙の拡大、視覚補助具やマーカー等の持ち込み許可が検討されます(独立行政法人 日本学生支援機構 2018)。

関連問題

●2022年-問45問148 ●2020年-問46 ●2019年-問97 ●2018年(追加試験)-問12

引用・参考文献

  • 中央教育審議会初等中等教育分科会 2012 共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)(平成24年7月23日)
  • 独立行政法人 日本学生支援機構 2018 合理的配慮ハンドブック ~障害のある学生を支援する教職員のために~
  • 独立行政法人日本学生支援機構 2022 令和 3 年度(2021 年度)大学、短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の就学支援に関する実態調査結果報告書
  • 文部科学省 2012 障がいのある学生の修学支援に関する検討会報告(第一次まとめ)(平成24年12月21日)
  • 文部科学省 2015 文部科学省所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針
  • 内閣府 2015 障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本指針(平成27年2月24日)