ひきこもり

ひきこもり

 ひきこもりは、厚生労働省の発表した<ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン>において、「様々な要因の結果として社会的参加(義務教育を含む就学,非常勤職を含む就労,家庭外 での交遊など)を回避し,原則的には6ヵ月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状 態(他者と交わらない形での外出をしていてもよい)を指す現象概念」と定義されています。

 不登校とひきこもりは関連の強い概念です。不登校の中には、ひきこもりと関連の強い一群がいると考えられています(厚生労働省)。また、どちらも自我理想をめぐった一連の病態としてみることもできます(牛島 2000)。ただし、不登校とひきこもりが全て重なるというわけではないため、対策に関しては不登校対策とひきこもり対策をまったく一緒にすることは適切ではないともされます(一般社団法人日本臨床心理士会(監修) 2017)。

 ひきこもりは現象概念とされているように、不登校同様あくまで状態像をさす用語であって、その背景がどのようなものかということまでは特定しません。そのため、適切な支援のためにはひきこもりとラベリングして終えるのではなく、その背景に存在する要因にまで目を向ける必要があります。具体的には、背景精神障害の診断、発達障害の診断、パーソナリティ傾向の診断、ひきこもりの段階の評価、環境の評価、診断と支援方針に基づいたひきこもり分類といった多軸評価をもとに支援を進めていくことが推奨されます。

 ひきこもりはその状態像の特徴からいって、相談機関との接触の時点で本人が相談の場に現れることが少なく、家族など周囲の人々の相談として始まることが多いとされます(伊藤 2004)。さらに、たいていは本人が来所するまでにも時間がかかるため、必然的に家族への対応が援助において重要な要素になりえます。ひきこもり支援は通常、出会いの段階における家族支援から当事者の個人的な支援へ、そして個人的支援からデイ・ケアや居場所のような中間的・過渡的な同世代集団との再会へ、中間的・過渡的集団活動から本格的な社会活動へという諸段階を、各々のペースで進んでいくとされます。

 そのため、特に初期には家庭訪問を中心とするアウトリーチ型の支援が有効な支援法の一つとして期待されています。訪問に際しては、生命にかかわるような危険が生じている場合を除き、原則として家族と当事者に訪問の了解を得ることが推奨されます。もしも、当事者が訪問を拒否している場合には、訪問以外のアプローチや家族を対象とした訪問をするなどの配慮が必要になっていきます。その上で、訪問スタッフの構成をはじめとした適切なセッティングを検討していきます。

 当事者との面談にあたっては、当事者は他人と会うこと叱責されたり罰を受けたりするのではないかといった恐れや不安を感じていることに留意しつつ、まず当事者の過ごしてきた時間と体験を尊重する、支持的受容的な態度で臨みます。そうしてしばらく面談をつづけ、内面的な話題をはなしあうようになったり、集団や社会への興味をほのめかすような発言が聞かれるようになったりした段階で、どうすればいいかを一緒に考える役割を引き受けることが推奨されます。

 ひきこもり支援を推進するために、平成21年には「ひきこもり支援推進事業」が創設され、その一環として都道府県、指定都市に引きこもりに特化した専門的な相談窓口として機能する「ひきこもり地域支援センター」が設置されています。

関連問題

●2018年-問19問67 ●2018年(追加試験)-問93 ●2019年-問65

参考文献

  • 牛島定信 2000 最近のひきこもりをどう考えるか 精神療法26(6)pp.3-8.
  • 一般社団法人日本臨床心理士会(監修) 2017 ひきこもりの心理支援 金剛出版
  • 伊藤順一郎(監修) 2004 地域保健におけるひきこもりへの対応ガイドライン じほうpp.15-16