過重労働

過重労働

 日本における労働状況は改善されている点もあるものの、いまだに問題を残しています。日本の労働者1人当たり所定内労働時間は年々減っていますが、所定外労働時間は増減を繰り返しています。また、勤務問題を原因・動機の1つとする自殺者の数は、平成 24(2012)年以降減少傾向にある一方で、自殺者数総数に対する勤務問題を原因・動機の1つとする自殺者の割合は平成19(2007)年以降おおむね増加傾向にあります。さらに、仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み、ストレスを感じている労働者の割合は、この15年、常に50%を超えているという状況があります(<令和元年度 我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況>)。

 過重な労働は、心身に重大な影響を及ぼし、時に死に結びつくことさえあります。仕事が主な原因で発症した心筋梗塞などの「心疾患」、脳梗塞などの「脳血管疾患」、また、仕事によるストレスが関係した精神障害については、「業務上疾病」として認められます。その基準は<脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について(平成22年5月改正)>に詳しいです。
 脳、心臓疾患の労災補償状況は、業種別(大分類)では、少なくとも平成26年以降、請求件数、支給決定件数ともに「運輸業、郵便業」が1位となっています(令和元年度 脳・心臓疾患に関する事案の労災補償状況)。
 脳、心臓疾患の労災認定基準が検討されているのと同様に、精神障害の労災認定基準についても検討がなされています。精神障害の労災補償状況は、業種別(大分類)では、平成28年度以降、請求件数は「医療、福祉」が、支給件数は「製造業」が1位となっています(令和元年度 精神障害に関する事案の労災補償状況)。

 仕事への取り組み方は、活動水準(+--)と、仕事への態度・認知(快-不快)といった直交する2軸を想定した場合、「ワークエンゲージメント(+、快)」、「リラックス(-、快)」、「ワーカホリズム(+、不快)」、「バーンアウト(-、不快)」の4つの事象に分類整理することもできます(島津 2010)。

 バーンアウトとは、エネルギー、力、あるいは資源を使い果たした結果、衰え、疲れはて、消耗してしまったことです。バーンアウトという概念を、初めて学術論文で取り上げたのはフロイデンバーガー(Freudenberger,H.)とされます。彼は保健施設に勤務していた間、数多くの同僚が徐々に、あたかもエネルギーが枯渇していくかのうように、仕事に対する意欲や関心を失っていく状況に直面しました。フロイデンバーガーは、同僚が陥った状態を表現するのに、「ドラッグ常用者の状態」を意味するスラングであったバーンアウトという言葉を用いました(久保 2004)。
 バーンアウトの測定にはMaslach Burnout Inventory(Maslach & Jackson 1981)がよく用いられます。MBIは、情緒的消耗感、脱人格化、個人的達成感の3つの下位尺度から構成されています。
 情緒的消耗感とは、感情的に仕事に追われ、疲弊しているという感情を表しており、「仕事に燃え尽きたと感じる」という燃え尽き症候群に直接関連する項目を筆頭に構成されています。脱人格化とは、自分のケアやサービスを受ける人に対する無感情で人間味のない反応を表しています。個人的達成感とは、人と接する仕事の中での能力や成功の達成感を表します。情緒的消耗感と脱人格化は相関関係が見られますが、個人的達成感は他の2尺度からは独立している点に注意が必要とされます。

 バーンアウトに影響する労務の形態としては、感情労働があります(荻野他 2004)。感情労働とは、職務の遂行に労働者自身の感情管理が求められるもので、もとはホックシールド(Hochschild,A)が飛行機の客室乗務員の訓練課程を分析する中で、「肉体労働」「頭脳労働」に続く第3の労働形態として提唱した概念とされます。
 感情労働には、表層演技、深層演技、感情的不協和の3つの要因が想定されています。表層演技とは、実際に感じている感情とは関係なく、対外的な感情の表し方や見せ方に関する管理や統制を行うことです。例えば、本当はイライラしているのに、笑顔で対応するなどがそれにあたります。深層演技とはその場面において社会的に、あるいは職業上望ましいと見なされる感情を実際に抱くべく、感情の感じ方そのものを意図的にコントロールしようとすることです。例えば、 嫌な客が来た時に“嫌だと思わないようにする”といったものです。感情的不協和とは、感情労働場面において演技を行う中で、自身の感情やその表現の齟齬や分離を継続させた結果として生じる一種の感情的な葛藤です(関谷・湯川 2014)。

関連問題

●2018年(追加試験)-問17問23 ●2020年-問34

参考文献

  • 久保真人 2004 バーンアウトの心理学-燃え尽き症候群とは― サイエンス社
  • 久保真人 1998 ストレスとバーンアウトとの関係ーバーンアウトはストレスか?- 産業・組織心理学研究12 pp5-15.
  • Maslach, C & Jackson, S.E.  1981 The measurement of experienced burnout. Journal of Occupational Behavior, 2, 99-113.
  • 荻野佳代子, 瀧ヶ崎隆司, 稲木康一郎 2004 対人援助職における感情労働がバーンアウトおよびストレスに与える影響 心理学研究75 pp.371-377
  • 関谷大輝・湯川進太郎 2014 感情労働尺度日本語版(ELS-J)の作成 感情心理学研究21(3) p.169-180
  • 島津明人 2010 職業性ストレスとワーク・エンゲイジメント ストレス科学研究25 p1-6.

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